※本記事は、2022年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』76号に掲載したものです。
定期誌『MarkeZine』76号 特集:リテール最新動向
第1回:「顧客体験価値の向上」を共通ゴールにしよう。『小売DX大全』著者からの提言
第2回:鍵は「UXへの落とし込み」リテールビジネスの今後を消費者調査から紐解
第3回:半歩先の進化が、より良い顧客体験に ユナイテッドアローズのEC・アプリのリニューアルから学ぶべきこと
第4回:「セブン-イレブンアプリ」で高まる店舗体験とその先にあるラストワンマイル構想
第5回:業界キーパーソンに聞くイチオシの買い物体験
第6回:買い物体験を豊かにする、最新リテールテック
第7回:リテールテックで店頭体験は進化する──量販店などで導入広がる「リモート接客」の可能性(本記事)
1to1コミュニケーションができない店頭販売の課題
──長年、店頭販売の現場を見てこられた上野山さんは、今リテールテックを取り巻く状況をどのように捉えていらっしゃいますか?
上野山:コロナ禍において非対面・非接触が推奨される中で「リモート接客」を使う機会が増えていますが、コロナ前からリテールの課題感は持っていました。たとえば消費者にとって、店頭で商品説明を必要とする場面はあるものの、店舗によっては人員を置くコストが重く、またスタッフの教育に投資できるリソースも限られているため、「聞きたいときに聞けない」という負の体験が生まれていました。また販促ツールも、印刷物を置いているだけで、「ターゲットに合わせてメッセージを変える」ということができていないことに加え、そうした印刷物はキャンペーンごとに作られているため、キャンペーンが終われば捨てられてしまいます。コスト面においても、環境面においても課題があると言える状況でした。
そうした中で、店舗側のコストをあまりかけずに、消費者に店頭でより満足のいく買い物体験をしてもらうにはどうすればいいか。その問いに応えられるソリューションとして、1to1で販売できるリモート接客のソリューションを作り、店頭のデータを取得してPDCAをまわせる仕組みを構築しました。デジタルサイネージであれば、コンテンツをすぐに切り替えられますし、センサーを使って消費者の行動を数値化することで、A/Bテストを行うことも簡単です。
店頭体験の向上と、店舗業務の効率化をダブルで実現
──具体的に、リモート接客のフローを教えていただけますでしょうか?
上野山:リモート接客の仕組みは大きく2種類あります。1つは、不明点があったときに来店した消費者が自ら呼び鈴を鳴らしてオペレーターを呼び出すタイプ。もう1つは、消費者からの呼び出しもできますが、オペレーター側から消費者の様子を見てお声がけすることも可能なタイプ。当社が提供する「えんかくさんリアル」は後者のタイプのリモート接客ツールになっており、家電量販店やドラッグストアなどで導入されています。
消費者の立場になってみると、わからないことは聞きたい一方で、「お店に販売員ばかりいると、気になってゆっくり見ることができない」というケースもあると思います。つまり、接客にはタイミングが重要なのです。特に「接客を上手く始めること」と「販売数」は相関しますので、私たちは消費者にストレスを与えない接客ができるように、こだわってプロダクトを開発しています。
デジタルサイネージだと、通りかかった消費者側にはコンテンツが流れるだけでまったく圧がかかりません。販売員は、消費者が商品を探していると感じたら「小窓から失礼します」という形で接客を始め、その時求められていないのであれば、「お困りのことがあればまた呼んでくださいね」と言って、すぐ消えることもできます。
接客を本格的に開始すると、商品を手に持ったり、動画や資料を見せながら説明したり、食品なら調理の動画やレシピを使って接客したりすることもできます。さらに接客後はすぐに、接客内容をシートに書き込み、店舗にいるスタッフに引き継ぐことで接客を効率化できます。
現場でのリアル接客だと、カタログを出したり動画を見せたりすると手間や時間がかかりますが、画面上であればテンポよく資料を切り替えることができるので、見る側もわかりやすいのです。
また、オペレーター側は複数の店舗を同時に見られる状態になっています。そのため販売員は、これまでのように「来店者が多い時間、少ない時間に関わらず立ちっぱなしで仕事をしないといけない」ということではなくなります。
デスクに座ってゆったりと構え、接客時もスムーズに資料を見せながら話ができますし、接客が終わったら分析資料をまとめながら次のタイミングを待つことも可能です。販売員にとっても心地良い環境を実現できる接客スタイルとなっています。