マーケターの成長に必要な2つの要素
――松本さん自身、実戦を通してキャリアを広げられてきました。
そうですね。僕のキャリアはエンジニアから始まっています。新卒で入社したロックオンで広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」の開発に携わりながら、少しずつキャリアの幅をデータサイエンスなどへ広げていきました。途中、ただデータを処理できるようになるだけではもったいないと思い、統計学・データサイエンスの大学院に通ったりもしました。
ですが、ある時点でデータサイエンス、あるいは定量的な分析の手法に“限界”を感じるんですね。これは、ひとえに僕のセンスのなさが原因なのですが。定量分析だけでは足りないと思い、定性領域のスペシャリストであるデコムへの転職を決めます。デコムで2年間様々な経験を通じてノウハウを学んだ後、JX通信社にジョインしました。
――エンジニアからスタートしたということですが、ご自身のこれまでを振り返って、マーケターの成長に必要なものは何だと思われますか?
抽象的な答えになってしまいますが、経験と理論の2つだと思います。経験というのは、イコール“場数”ですね。少し前に、デジタルマーケティング領域に特化しているマーケターを、デジタル以外の経験もあるマーケターが揶揄するような動きがSNS上でありました。「デジタルだけでマーケティングを語るな」と。個人的には、この動きに対して「どうなんだろう?」と首をかしげる部分もありましたが、言い得ているところもあるかもしれないな、と。
これは、デジタルに特化していることがダメだと言っているのではなくて、テレビCMでも交通広告、新聞広告でも種類は問いませんが、デジタルだけでなくマスを対象にした施策の経験があるほうが、単純に知見は増えますよね。マーケティングに限らず、どんな職種でも経験を広く積むことは必要だと思います。
ただ、経験は、その時々の実態によるものです。なので、自分が経験した物事にどんなセオリーがあったのかを考えて、経験から得たものを自分なりにまとめないと経験値が2倍、3倍に増えていくことはありません。これは自学自習で補える場合もありますが、大学院に通って学ぶのもひとつの手段だと思います。
対・流通戦略という時もあるので一概には言えませんが、マーケティングは、基本的には“対・人”で、人の心を対象にするものです。人の心には方程式で証明できる法則があるわけではありませんから、ある程度“理論”を知っていないと、ずっとその場限りの対処になってしまう。自分の引き出しの中に理論があると、様々な現象に対して根拠を持って手を打てるようになるので、やっぱり理論を知っているというのは強いと思います。
――事例を積み重ねていくだけでは、足りないということですね。
世にある様々な事例を知ることもすごく大事だと思っています。ただ、具体と抽象を行き来しなければいけませんよね。ひとつの事例を“具体”だとしたら、それを一度抽象化した上で、具体例として自社に落とし込むことが必要です。何か新たな取り組みを始める時に、A・B・C……と少し違うパターンの事例をとにかくたくさん欲する方がいますが、それは事例という具体例を抽象化できないためだと思います。そして、この作業は比較的高度なスキルを要するものだとも思います。