欧州を中心としたデータ倫理に関する取り組み
GDPRが施行された2018年以降、欧州を中心にデータ倫理に関する取り組みが各国で進んでいる。データ倫理の中でも、特に差別などを助長する可能性のあるプロファイリングなどを規制するためのAIに関する倫理が先行しており、2019年には欧州委員会が「信頼できるAIのための倫理ガイドライン」を公表。これを参考にポリシーやルールを策定する企業が世界中で増え、日本でも富士通やNEC、ソニーなどのグローバル企業がAI倫理に関するポリシーやガイドラインを定めている。
AIに限らず、データを取り扱うあらゆるケースにおける倫理原則の公表を義務付ける国も出てきている。デンマークでは2019年に、企業がデータ倫理をビジネスに採用・実装するのをサポートするためのデータ倫理ツールボックスを政府機関が公表した。2020年にはデンマーク財務諸表法の改正案が可決され、2021年以降、一定規模以上の大企業および上場企業は年次報告書においてデータ倫理に関する方針を公表するか、方針がない場合はその理由を公表しなければならなくなった。
マーケターが考慮するべきデータ倫理
これらは主に経営層が検討するべき事項であるが、現場の担当者がデータ倫理を自分ゴト化し、自社のサービス開発やマーケティング施策に適応させるには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
アドテクノロジーの発展にともなって容易にデータを集め精緻なターゲティングができるようになった結果、個人が想定していないようなデータの連携やプロファイリングなどの利活用が行われ、企業にとってはその個人のためにと考えたものであっても、その個人にとっては不快感を覚えてしまう場合がある。他のケースとして、データ主体とデータ利用者が異なるといったステークホルダーが複数いる際に、一方にはベネフィットがあっても他方にネガティブな影響を与える場合もあり、公平性の視点を持ちそれぞれの立場に立って影響を考える必要がある。
このようにデータを利用した新しいプロジェクトに取り組む際に、自身の認知バイアスを疑い俯瞰的に問題の有無をチェックする必要があり、それを支援するためのツールも徐々に出始めている。英Open Data Instituteは、倫理的な問題を特定し管理するためのツール「Data Ethics Canvas(※1)」を公開し、時勢に合わせ毎年バージョンアップを実施している(図表2)。

このツールはプロジェクトの規模に関係なく利用することができる。そのため、プロジェクトの影響を受ける可能性のある様々な立場の人を可能な限り巻き込み、その内容とアクションプランを広く共有し、プロジェクトの開始時から終了時まで定期的に進捗確認と見直しによる更新を行うことで、潜在的なリスクを最小限に抑えることができる。
ワークショップなどにおいて、このCanvasの各セクションに用意されている質問(図表3)の回答をまずは個人で考え、その後グループに共有して議論を行う。これにより、そのプロジェクトの課題とその解決に向けた個人および組織としてのアクションが明確になっていく。