データから読み取れるシニア世代の「心と体の矛盾」
この「シニアだと思っていない」というマインドを理解することで、見えてくる消費行動がある。それは「備え消費」、つまりライフエンド系商材(介護、葬儀、相続など)の消費を「まだ早い」と先延ばしにする傾向だ。
たとえば『終活』に関する調査を行ったところ、79%が「終活すべき」と思っているのにもかかわらず、実施者はわずか38.3%との結果に。コロナで終活を見直し、行動に移す人が増えたのではとの仮説があったが、コロナ前後で比較しても行動と意識のギャップは埋まっていなかった。

気持ちは若くてこれからのことを先延ばしにする傾向が明らかな一方で、体が追い付いていない状況がうかがえると梅津氏は指摘する。“平均寿命”と“健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)”を調べると、平均寿命が延びても健康寿命は延びていないのだ。

「心と体が矛盾する」シニア世代特有のモヤモヤを解消するには?
企業は、この心と体のギャップに注目しないとならないと梅津氏は言う。
「例を挙げると、『孫は可愛いけど、四六時中お世話するのは大変』『母親は大切。でも介護はしんどい』『働き続けたいのに昔のように馬力がきかない』など、心と気持ちは若いけど、体や感覚がついていかないという矛盾した悩みを抱えるシニアの方は多いです。でも実は、このギャップを埋める部分にビジネスのヒントがあります」(梅津氏)
このギャップを雑誌のコンテンツに活かしてできたのが、『ハルメク』の終活特集だ。先に話した「先延ばしマインド」に対してそれを逆手に取り、表現のテストや調査をしながら「元気なうちに始めよう!『終活』基本のき」「元気なうちに始めるがんばらない終活」というように、終活を今ゴト化。先延ばしせずに今やろうというメッセージを投げかけたところ評判がよく、今では毎年定番の特集テーマとなった。

ハルメク通販でも、同様に端境期消費を今ゴト化したことでヒットにつながった商品がいくつもある。
その一部が、白髪染めを「プラチナグレイカラー」、補聴器を「耳掛け集音器」、シルバーカーを「キャリーバッグ」など、ネーミングを変更した商品たち。どれも“白髪”や“耳が聞こえづらくなる”、“歩きづらくなる”など老いを想像する商品だが、そうした端境期に女性が『まだ自分には早いから必要ない!』という抗う心理が働くものを、言葉やパッケージのおしゃれさで今ゴト化して再定義してあげたことでヒットさせられた好例だ。