消費行動に影響を与える5つのパーセプション
続いて、消費者行動論の権威であるJ.N.シェスは、消費行動に大きく影響を与えるパーセプションを次の5つに整理しています。これは、経済学、社会学、心理学、マーケティングなど幅広い領域の研究を集約して構築されており、あらゆる商品やサービスの知覚パターンに適応できることから広い支持を得ています。
・機能的価値:客観的な機能性・実用性から知覚される効用
・感情的価値:使用や所有により想起される感情・情緒から知覚される効用
・社会的価値:対人関係や特定のグループに関連づけて知覚される効用
・認識的価値:好奇心や知識欲求の充足、特定の価値観をもとに知覚される効用
・条件的価値:特定の状況から知覚される効用

これら5つのうち「機能的価値」「感情的価値」「社会的価値」は、ブランド論で取り上げられることも多く、イメージしやすいと思います。特徴的なのは、「認識的価値」と「条件的価値」という視点です。
認識的価値とは、知的好奇心や特定の価値観を通して認識される価値を表しています。たとえば、流行に触れることで価値を感じたり、目新しいものやいつもとは違う商品やサービスに魅力を感じたりするといった具合です。
条件的価値とは、クリスマスなどの季節的なイベントの時に価値が高まるものや、感染症が蔓延している時の衛生用品など、特定の状況において認識される価値を表しています。しかし、知覚する機会が限定的なため、通常の消費行動においては大きな影響を与えない、という指摘もあります。
そして、J.N.シェスは消費行動に影響を与えるパーセプションの原理について、次のように説明しています。
パーセプションの原理
〇商品・サービスに対して、消費者は1つ以上の価値を認識する
〇同一の商品・サービスでも、個人によって異なる価値を認識する
〇認識された価値は相加的に作用する
ブランドマネジメントに不可欠な「パーセプション・マトリクス」
こうした研究内容を踏まえ、パーセプションをコントロールする上でおさえるべきポイントを整理していきましょう。
先述のJ.N.シェスのパーセプションの種類は、価値の側面が過不足なく整理されていると思います。しかし、条件的価値は商品やサービスを知覚するパターンのひとつではなく、状況や文脈によって評価が変わるというパーセプションの性質として理解するべきです。
M.B.ホルブルックやJ.N.シェスの理論から、パーセプションのマネジメントに必要な視点は、次の「パーセプション・マトリクス」で捉えることができます。

パーセプションの原理である「同一の商品・サービスでも、個人によって異なる価値を1つ以上認識」し、それが「相加的に消費行動に作用する」ということを踏まえると、これら4つの価値のすべての側面から商品やサービスの価値を訴求することで、多くの消費者の心を動かし、ブランドが選ばれる確率を高めることができると言えます。
また、商品やサービスの「特徴」がパーセプションに影響を与えることも、消費者研究で明らかにされています。たとえば、ハーレーダビッドソンは大型で重厚感のある車体を「男らしくてかっこいいバイク(感情的価値)」というイメージで訴求し続けた結果、消費者はそのイメージで認識し、浸透しました。ハーレーダビッドソンのバイクは、交通手段として選ばれるわけではなく、自己表現や趣味の一つとして評価されています。つまり、商品やサービスの特徴を明確化することで、独自のポジションを築くことが可能ということです。
しかし、4つの価値のうちいずれかでポジショニングするだけでは、消費者との長期的な関係は築けません。前回も説明した通り、機能的価値が備わっていることは必須です。たとえば、目新しさ(認識的価値)を前面に押し出して一世を風靡した商品やサービスが、その後、機能的価値を十分に高められず廃れていくことがあります。その原因は、プロダクトライフサイクルの導入期から成長期にかけて、価値の多様化を実現できなかったことにあると考えられます。