なぜ今、MMMへの関心が高まっているのか?
コミュニケーション各施策への投資配分をいかに最適化していくかは、統合マーケティングで外せないテーマだ。これに対し、近年注目を集めている手法が「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」である。
MMMとは、ひとことで言うと「同時に複数展開されているマーケティング施策と、マーケティング活動以外の要因も含めて、売上の増減に何がどれだけ影響しているのかを明らかにする手法」のこと。売上・コンバージョンなどの成果をはじめ、広告出稿量や外部要因も含めた様々なデータを分析し、各施策の売上への影響度を測っていく。今、グローバルの先進企業ではこのMMMが「次世代の効果測定の手法」として定着しつつある。
だが、実はMMM自体は何十年も前に誕生している。それがなぜ今改めて注目されるようになっているのか? そこにはいくつかの背景があると中村氏は語る。
大きいのはプライバシー保護の問題だ。GDPRやCookie規制など新たに制定された法律やポリシーに即して各プラットフォーマーが対応を取り、事業主側ではデータの欠損が起きている。データが欠損している中で、これまで通りの効果分析を行うのは当然難しく、計測指標を変える必要性が出てきているのだ。
「データの欠損値が高まり、それまで主流だった利用者、Cookie単位での計測が難しくなりました。効果分析で利用できるデータが変わると、パフォーマンス評価の指標も見直す必要が生じます。そんな流れの中で『今までのKPIにこだわっていると、一部のデータで判断せざるを得なくなる。それなら一歩下がって、全体のROIをKPIにしたほうがいい』という流れが出てきたのです。この流れを受けて、MMMに関心が集まるようになったと考えています」(中村氏)
とはいえ、実際にMMMを活用できている企業はまだまだ少ない。「MMMの有用性はわかるが、日本だと規制後もCookieに代わるシングルIDをどうトラッキングするかに苦心している企業も多いのでは」と、モデレーターの松本氏が問いかけると、中村氏もそれに同意。MMMは世界的な潮流となっているが、海外の先進企業と比べると日本企業の遅れは感じざるを得ないと話す。
「理由は色々あるのでしょうが、海外の特にテック系企業は社内にデータサイエンスチームを作っているところが多い。ゆえに、統計処理や機械学習で出てきたものを違和感なく受け入れる土俵ができているんです。日本はCookieシンクで『出てきたものを見る』というカルチャーがあるので、そうした考え方やマインドを変えるに時間がかかっているイメージです。ただ、伝統的な日本企業でも、現状に危機感を抱いて経営陣ごと巻き込みながら取り組みを進めているところもあり、今が過渡期にあるように思います」(中村氏)