※本記事は、2022年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』78号に掲載したものです。
「命」や「お金」にまつわるデータの重み
筆者のたとえ用語として、「重い側のデータ」と「軽い側のデータ」と紹介している概念がある。
この「重い側のデータ」とは、「医療・金融・保険・教育」の4分野を筆頭とする。たとえば、医療データであれば、人体のDNAや血液、内臓疾患などの個人(患者)が主体となって提供するデータを指す。生死に関わる貴重なデータを扱うからには、企業(病院や医薬事業者)が持つ責任は重い。同様に、金融(決済・資産管理・融資・クレジットスコアなど)においても、そのデータへの責任は「金融資産を預かる、間違いなく実行する、秘密を厳守する」という責務の重さがある、という背景からの4分野だ。
一方「軽い側のデータ」とたとえるのは、GoogleやFacebookなどのCookie情報に代表される、マーケティング目的でユーザーを「推量」「追跡」するためのデータや、さらに推量・拡張させるためにサードパーティーから買い付けるデータを指す。具体的には、視聴データ、閲覧履歴(Cookie含む)、購買履歴、位置情報、メールアドレス・住所・氏名・生年月日、アンケートなどが相当する。これらの中にはGDPR/CCPAが指摘するまでは、事業主側も無意識にデータ保有者から無断でネット上をのぞき見しつつ、せっせとかき集めてしまったデータも含まれる。
この両者のデータがまったく異質であることを「水と油」という言葉で表現した。これらのデータの価値の差や相性(毛並み)の違いへのヒントとして2つの事例を紹介しよう。
「30,000円と3円」 過去のマーケティングデータは軽い側
図1は、ダークウェブ上で取引されている1人当たりのデータ単価の相場とされる。
「医療」データは1件約3万円、「金融」データも千円台であるのと比較して、マーケティング上での個人情報PII(Personal Identifiable Information)は約3円と、1万分の1もの開きがある。これは非公式の参考データだが、マクロ市場全体で俯瞰しても、米国の医療や金融・保険の産業は500兆円級とされる一方で、マーケティング・コミュニケーション(Advertisingを含む)の領域は30兆円規模という開きがある。
上記の単価を「桶屋が儲かる式」で計算すれば、マーケティングのデータ市場とは「医療データの1万分の1の単価のマーケティングデータを1,000回転させて、医療市場の10分の1の市場規模にまで持ち上げている」とも計算できる(1,000単位を用いるCPM計算方式と似ている)。