自分の意識・態度変容の中に、マーケティングのヒントがある
MZ:効果測定を適切に行うためにも、各要素のインパクトの大きさや要素同士の関連を俯瞰の視点で捉えることが重要になりますね。
池田:はい。効果測定というのは本来、非常に時間とコストがかかるものです。ダッシュボードに反映された数字を読むだけでわかるものではなく、本格的にやろうとすると、アンケート調査などで、人の意識変容や態度変容に迫っていくことが必要になります。
一方で、そもそもマーケティングというのは人間の営みを科学するものなので、測定しなければ何もわからない、というものではないはずです。自分自身もその人間の一人だから、自分の意識や態度の変容を丁寧に追っていけば、わかることがたくさんある。難しく考えすぎることはないのです。
MZ:測定に頼るだけでなく、自分の頭で考えることもまた重要ということでしょうか?
池田:はい。一番手っ取り早いのは、自分が過去1ヵ月で買ったものをすべて書き出して、それをなぜ買ったのか考えてみることです。「なぜ自分はこのお店でこの金額を払ってこの商品を買ったんだろう」「そもそもどこで知ったんだろう」「どうして興味を持ったんだろう」「どうやってこの商品と他の商品の差異を理解して比較検討したんだろう」などなど……。
自分はどのような意識変容プロセスを経て購買の決定をしたのか。買い続ける商品と買い続けない商品は何が違うのかを考えてみる。そうすると、売上に寄与している要因の大きさや要因間の関係を掴みやすくなり、自分の頭の中に少しずつ地図ができてくるのではないでしょうか。

「なぜそれをやらなかったのか?」に注目してみよう
MZ:消費者としての自分の行動を振り返り、そこからヒントや仮説を得るにはコツも必要になりそうです。どんなふうに行えばよいのでしょうか?
池田:たとえば、本書では売上に影響する要因の一つとして「想起」を取り上げたのですが、ZMOT(Zero Moment of Truth)の概念、「なぜこのワードを検索したんだろう?」という段階から考えていく必要があります。
たとえば、家の掃除機が壊れてしまい新しいものが欲しくなったとき、自分ならどうするか? スマホで商品名をGoogle検索する人もいると思います。では、なぜその商品名が真っ先に浮かんだのか? 一体いつから自分の脳内にはその状態がセットされたのか? そうした行動一つひとつを、メタ化していくということです。
中でも、「なぜそれをやらなかったのか?」という点に重要なヒントが隠れています。人はやったことに対しては意識的になりやすいですが、そうでないことは見えなくなってしまいがちです。掃除機をGoogleで検索した、という行動をメタ的に見ると、FacebookもTwitterもInstagramも開かなかったと言える。そうすると、このシーンにおいてFacebookやTwitter、Instagramは効かないのではないか。こんなふうに自分の頭で考えた仮説を、マーケティングに活かすことができます。
私たちのリアルな生活は、非合理な思考と行動で満たされています。ノウハウ化された手法を当てはめてすべて解決できるかというと、そうではありません。もっと自分たちの頭で考えなければいけない。そういう問題意識がずっとありますね。