2022年の話題作から見えてくるポイント
さて、2022年の受賞作の主な特徴についてもご紹介していきましょう。例年、カンヌ・ライオンズのブロンズ以上の受賞作は、応募数の3%程度で約1,000点(今年は応募数がちょっと少なかったので862点)です。800点以上もある受賞作の特徴をいくつかのポイントに取りまとめるのは無理があるのですが、様々な部門でゴールド以上を受賞する“今年の話題作”を見ていくと、いくつかのポイントが見えてきます。
今年のカンヌ・ライオンズで目立った特徴を僕なりの視点でまとめると、大きくは次の2点となります。
1.「社会問題の解決をテクノロジーの活用や軽いタッチのアイデアで」
2.「クラシック広告の再評価」
環境問題に斬新なアイデアでアプローチしたコロナビール
【1】はカンヌ・ライオンズで以前から言われている「ソーシャル・グッド(広告やブランドは世の中に良いことをすべき)」に連なるものです。今年は、そうした社会課題をエモーショナルに訴えるのではなく、テクノロジーや今までにない軽いタッチのアイデアで解決しようと試みた施策が目立ちました。
この特徴を持つ代表作は、ブランド・エクスピリエンス&アクティベーション部門ゴールド他を受賞した、コロナビールによる「PLASTICFISHINGTOURNAMENT」です(メキシコなどで実施)。
海洋プラスチックごみをなんとか減らすために、誰かの“環境を大切にする心”に訴えるのではなく、プラごみが多すぎて漁に支障をきたしている漁師たちに対して、なんと「プラごみを回収した量を競うトーナメント」を開催したというもの。コロナビールは獲得量に応じて漁師たちに賞金を出し、いわばプラごみ被害者である漁師たちを支援しながら、20トン以上ものプラごみを減らしたと言います。そんなヘビーな課題にトーナメント形式を用いるの? と言いそうなお堅い人もいそうですが、きちんと成果もあげ、カンヌ・ライオンズの審査員たちも高く評価したことになります。
テレビCMやグラフィック広告が再評価
次に【2】に関して。ここ10年ほど、カンヌ・ライオンズ受賞作には「作品としてのクリエイティビティから仕掛けのクリエイティビティへ」という傾向が見られるのですが、今年はテレビCMやグラフィック広告など「クラシック広告」が再評価されたという印象があります。
その代表作は、プリント&パブリッシング部門ゴールド他を受賞した「BETTER WITH PEPSI」です。マクドナルドもバーガーキングもウェンディーズも、どのブランドロゴの中にもペプシの赤と白と青のマークが隠れているよ、と小粋にグラフィカルに提示してみせました。それによって「どのハンバーガーもペプシと一緒だともっとおいしく食べられるよ」とメッセージしたわけです。もっとも、応募用の事例ビデオを見ると、多くの人々がネット上で画像の中に隠れているペプシのマークを探して盛り上がるなど、“仕掛け”的かつ現代的な展開も同時に見せたようです。
いずれにせよ、カンヌ・ライオンズには「これからの広告の届け方」のヒントが満載です。今回の原稿では語りつくせなかった多くの情報をまたお届けしていきたいと思います。

大学卒業後、現・ADKホールディングスに入社し、その後博報堂DYメディアパートナーズを経て2011年4月より現職。カンヌ国際広告祭、アドフェスト、東京インタラクティブアドアワード、ACC賞などで受賞経験を持つ。2004年カンヌ国際広告祭フィルム部門日本代表審査員など、審査員としても多数参加している。