「接客に強い」という資産をデジタルでいかに活かせるか
──ここから話題を人材育成に変えますが、マーケティングの概念が元々組織に根付いていなかった中で、マーケティング人材の育成および強化についてどのような取り組みをされていますか?
マーケティング人材の育成に関しては、まだ本運用には至っていませんが、マーケティング人材育成サービスの「グロースX」を導入しています。当社には、元々マーケターとして入社しているメンバーもいれば、店舗スタッフ出身のプレスやECの運用を専門的にやっているメンバーもいて、マーケティング本部の中に色々なバックグラウンドや経歴を持つ社員が集まっている状況です。なので、まずはみんなの知識レベルを合わせて共通言語を作る必要があり、「グロースX」でマーケティングの一般的な教育を行っています。
マーケターはプロフェッショナルな職業なので、メンバー自身がどこを目指しているか? は重要です。より上流の戦略のところから担いたいのか、データ分析を専門的にやりたいのかは、各人によってぜんぜん違う。なので、それぞれの向き不向きを踏まえ、今の業務がそれにリンクしているかどうかは、ちゃんと見てあげることが大事だと思っています。そう考えると、最近は業務が一つひとつ細分化されていて、なかなか全体最適を図る機会がないので、今の若手はかわいそうな気がしますね。
──店舗スタッフの育成もOMOには欠かせないかと思いますが、具体的な取り組みはありますか?
先に少しお話ししたとおり、ユナイテッドアローズの強みは接客にあり、これは当社の資産でもあります。店舗スタッフにおいては、「STAFFSTART(スタッフスタート)」のようなツールを活用し、これまで店舗で1対1で行っていた接客をデジタル上で1対nに向けて提案するなど、接客の強みをデジタルへ移管する取り組みができており、改めて何かを教育する、というようなことは必要ないと考えています。
プラスの教育として行っていることを挙げるとすれば、ライブコマースの研修は行っています。ユナイテッドアローズでは、PRのスタッフがおすすめの商品を紹介するコンテンツと、ショップのスタッフにも出演してもらい店舗内でお客様に接客をするかのように商品を紹介するコンテンツと、現在2パターンのライブコマースを行っているのですが、これらのライブに出る社員に向けて外部の講師を招いた教育を行っています。たとえば、テレビショッピングのMCをやっていた方に講師をお願いし、座学と実地指導をしてもらったり。スマホ上で商品がどう見えるか、お客様にいかによい体験をお届けできるかを考えると、ある程度訓練も必要だと考えています。
──藤原さんはこれまでも人を育てる立場にいることが多かったかと思います。人材育成に向き合う際、なにか大切にしていることはありますか?
「授人以魚不如授人以漁(飢えている人がいたら、魚を与えるより、魚の釣り方を教えよ)」という老子の言葉がありますが、僕が直接答えをあげるより、答えの出し方を教えるということは意識しています。これに加えて、魚の釣り方を知っていても、釣り竿を持っていないと魚は釣れないので、僕の場合で言うと成長できるチャンスや機会も一緒に与えることを大切にしています。
また、マーケティングはやはり新しいことをやることが多いですよね。なので、何か新しいことを始めるときはなるべく僕も一緒に入り、並走してスタートを切ることも重要だと思っています。SaaSのツールを入れるときは管理画面を自分でも必ず触りますし、任せっきりはしないようにしていますね。関連して、部下が出した結果には、上司に原因があったりもします。その集合体が会社の成否になっていくわけです。ですので、たとえ自分が120%やれたとしても、部下に100%を求めないことが大切だと思っています。
──最後に、DXが進んだ先に見据えるビジョンをお聞かせください。
すでに「ユナイテッドアローズ」というブランドの認知はありますが、それよりも「洋服を買おう」と思ったときにユナイテッドアローズをいかに思い出してもらえるか? が重要です。これを追求すると、やはり我々が今進めているLTVに行き着きます。「接客」をデジタルで1対1から1対nに広げ、ブランド自体をより浸透させていく。そうして、購入意向を高めるのが、まず一つめの中間ゴールだと考えています。そして、最終的なDXの本丸はAIです。人間がやるべきところとやらないところを切り分けながら、デジタルという手段を使って、お客様にとって意味のある会社になっていければと思います。
