消費者がモノを買う理由の“奥の奥にあるもの”
今回紹介する書籍は『ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング』。著者はサイエンスライターの鈴木祐氏です。
鈴木氏は慶應義塾大学SFCを卒業後、出版社勤務を経て独立。サイエンスライターとして、数多くの学者・専門医を取材する傍ら、科学に関する自身の知見を紹介したブログ「パレオな男」のPVは月間250万にも上るといいます。
本書は4つの章で構成されています。第1章では、消費者の購買行動の動機である「8つの本能」を紹介。次章からは、それらの本能を刺激することで自社の商品・サービスの訴求につなげる具体的な方法を解説しています。
本書の冒頭で鈴木氏は「多くの人がモノを売ろうとする際、“身近”なレベルで消費者の行動を理解したがる」と述べています。その上で「消費者の好み・感情・性格だけにフォーカスしていたら、より効果的な売り方を見過ごしかねない」と指摘。消費者がモノを買う理由の奥の奥を明らかにし、その後の消費行動の変化まで予測するためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
アップルやマッキンゼーも採用する「進化論マーケティング」
鈴木氏は消費者の購買動機の深層心理を読む手段として「進化論マーケティング」を紹介しています。進化論マーケティングとは、ダーウィンの進化論をビジネスに応用した学問です。2000年代にカナダのコンコルディア大学の教授が基礎となるコンセプトを提唱。近年ではアップルやマッキンゼーなどの企業も経営手法の一つに採用しているといいます。
進化論マーケティングの特徴は、人類史を原始の時代にまでさかのぼった上で、現代の人間の中に顕在化した欲望を“本能”をベースに捉え直す点です。たとえば「高級品を購入したい」という欲望の背景には「他人に見栄を張りたいから」などの理由があると一般的には考えられます。進化論マーケティングでは、そこからさらに一歩踏み込んで「高級品を買いたくなる“本能”とは何か」と問いを立て、その源泉にある「性的シグナリング」を探るのです。性的シグナリングとは「私は恋人として理想的な存在だ」と周囲にアピールする行為のこと。つまり「生殖本能」が関係しているという考えです。
鈴木氏は「消費者は自身が手に取った商品について、なぜそれを選んだのかをよく理解していないことが多い」と指摘。そうした潜在的な領域を「自分のDNAを後世に受け継がせたい欲望(=生殖)」と、さらに「個体としての自分を長生きさせたい欲望(=生存)」に帰結させたのが進化論マーケティングです。
「欲望」を見極め、インサイトを正しく把握する
鈴木氏は「生殖」「生存」という2つの根源的な本能から派生する形で、8種類の欲望のタイプを紹介。それが「安らぐ」「進める」「決する」「有する」「属する」「高める」「伝える」「物語る」です。
たとえば「安らぐ」は、自身に危害を及ぼすものを避けたいと願う欲求のことで、行動パターンとしては「リスクを取らない」「伝統を好む」などが挙げられます。「松竹梅のようにグレードが分かれた商品で『気づいたらミドルクラスを選んでしまっていた』という選択の背景には、安らぐ欲望が存在している」と鈴木氏は語ります。
一つひとつの消費者の行動について「8種類の欲望のどれに当てはまるのか」を見極められるようになると、より深い仮説を生みやすくなり、ひいては消費者に真に刺さる広告コピーの発案や、正確な消費者インサイトの発掘につながるというのです。
2章以降では、8つの基礎本能を実際のマーケティング施策に落とし込む方法を解説。「消費者行動を潜在的な領域も含めて深く理解したい」と考えるマーケターの方は、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか?