コロナの影響で予算が縮小し、マーケ施策が全面ストップ
認知拡大のための予算を確保し、CMや新聞への露出など多くの施策を打ち出していたリンクアンドモチベーション。しかし2020年4月、コロナの感染拡大を受けて、経営判断により予算は4分の1まで縮小した。それまではリードが数千件ある中でアポを数百件確保していたが、新規のリードが見込めず、数十件程度に縮小したリードの中でアポ数を維持しなくてはならない。
「新規での獲得ができない場合、既存のリードを活用するしかありません。ナーチャリングの早急な対応が求められました」(宇野氏)
新生マーケチームの発足と落とし穴
宇野氏はまずメールマガジンの配信、Webサイトへの流入を促進する動きを始めた。MAツールを導入したものの活用ができず苦戦したが、徐々にサイトからのコンバージョンができるようにはなってきた。しかし、新たな施策も求められる。新規獲得がなくなり、リードが枯渇する時期は元々わかっていたため、ナーチャリング施策から、検索広告を交えてジェネレーション施策まで拡大していった。
振り返れば、この時から少しずつインサイドセールスの企画部から、マーケティングのチームへと変化を遂げていったという。次の種まきに向けたマーケティング活動も開始したが、ここで大きな落とし穴にはまる。
「検索広告のパフォーマンスには、遷移先のサイトが大きく影響します。しかしこれまで、広告ではなくサイトに問題があった場合、すぐに対応ができませんでした。Webサイトの管理権限が別のチームにあり、ボタンの文言を修正する時間がかかるなど、リードタイムが長いのが問題でした」(宇野氏)
新たな施策を始めたのにも関わらず、サイトの修正が元のマーケチームのままでは、交渉に時間とコストがかかる。広告の施策であるにも関わらず、広告の中のPDCAだけでは、施策とセットで権限を持っていないために成果が上がらないという厳しい状態に追い込まれた。
「サイトも施策も同じ組織の方がいいのではないかと考えるようになりました。サイトのデザインをリニューアルするといったブランド開発としては良かったのですが、リードを獲得していくにはコストがかかります。誰でも簡単にサイトの編集ができるツールはないか、探していた時にFacebook広告でferret Oneと出会いました」(宇野氏)
ferret Oneは、ベーシックが開発するWebマーケティングツール。同社が開発する他のSaaSと同様にBtoB企業向けに開発されており、BtoBマーケティングの効率化に特長を持つ。
宇野氏は当時、CRMとの連携などに懸念はあったが、操作が簡単なことからferret Oneの導入に踏み切った。
短期間で「以前の6倍の成果」を残すことに成功した3つの理由<
「ferret Oneを導入して一番上がり幅が大きかったのはSEOの施策です。誰でも簡単に操作できるため、3サイトで毎月20本の記事をアップでき、数年前までは2万件弱くらいだった自然検索流入数が今では7万件になりました。モチベーションクラウドもスタート時は3000件でしたが、今は15万件になっています。」(宇野氏)
サイト内で多くのコンテンツが誕生し、自然検索からの流入数は6倍になった。その理由は三つ挙げられる。
一つ目は、内製化によるサイト更新のスピードアップだ。
以前は微妙なニュアンスや言葉使いの改修といった細かい要件の一つひとつをパートナー企業と擦り合わせながら対応するために多くの時間を要していた。ハイクオリティなものが納品されやすいが、速度を最優先にしたいことも多かった。しかし、ferret Oneを導入してから自社内での変更が可能となり、打ち合わせの中でもできるようになった。
改修の速度が向上し、大量の施策テストを実行
二つ目の理由として、ABテストの実施が容易になったことが挙げられる。年間200の規模でテストや改修作業を回していたが、小さな文言の変更を毎回パートナー企業に依頼するのでは時間もかかる。それがferret Oneによって自社内で対応できるようになったことは大きい。
施策上で300ページのURLを一気に差し替えるといった作業も、ferret Oneなら操作が簡単で、リーダー以外の複数メンバーでも対応できることが大きく影響した。1人8時間かかる作業が4人一緒にかかれば2時間で終わる。組織面でも、苦楽をともにする中で結束を強化する機会にもなった。
マーケ予算が縮小した中で成果を上げるには、地道なテストをやっていくしかない。結果、良い施策と悪い施策に振り分けられ、効率化ができた。
出戻りコストを削減、工数が見える化
三つ目の成功理由は、ユーザーの反響を見て、サイトを「即」改善できるチームになったことだ。
PDFやパワポのデザインなどと、サイトでは見え方が微妙に異なるため、今までは出戻りコストが生じていた。ferret Oneは実際のサイトでデザインが組めるため、その心配がなく、メンバーの負担が減った。また、これまではサイトの機能をどこまで実装できるのかが判断しきれないところがあったが、ferret Oneを使用するようになってから、新しいデザインのアイデアも生まれるようになった。
「今まではデザイン設計をパートナー企業が行っていたため、工数がざっくりとしか見積ができませんでしたが、ferret Oneを導入してからは精緻な時間がわかるようになりました。これは自分達でサイトを変更できるようになったことが起因しています。ferret Oneという共通のフォーマットができたことで、メンバーから出てくる施策も現実味を帯びてきました。また、工数もわかるのでリーダーとして管理もしやすくなりました」(宇野氏)
もちろん順調なだけでなく、様々な悩みも生じた。その一つが「施策を実行していく中でのマーケター側のレポーティング」だ。
数値をどう解釈して経営陣に伝えていくのか、どう未来を見せていくのか。本来のマーケティングの測り方では投資と受注金額で算出するのだが、多くのフローの中の「間の数値」を見ることは難しい。形式的な項目を埋めたら終わりというレポートもある中、今の状況を見たらどこの指標がキーポイントなのか、ただ数を見るだけではなく未来に向けた分析を周りと相談し、臨機応変に行ってきた。
「数字を出す時は『意味のある数字をどのタイミングで出すか』を常に上司と打ち合わせをしていました。最初はコンバージョン数しか報告できませんでしたが、商談化率やアポ獲得数など数値化できないか試行錯誤し、変えてきました」(宇野氏)
事業部チームから全社組織に成長
一つのチームが成果を出すことはあるが、全社組織にまで影響することは珍しい。宇野氏は経営の中でインサイドセールスの期待が高まり、拡大のアクセルが踏みやすくなったところで、すべての仕事を誰にでもできるように仕組み化した。
人を増やしていけば、できることが増えていく。型化と汎用化を繰り返すことで、結果として、リンクアンドモチベーション全体を支援できるようになった。そして一つの事業部チームが全社組織へと成長した。
人員・予算不足に悩む後輩マーケターに、基本は目の前で成果を残すことが大事だと宇野氏は語る。
「残した成果を溜め込まずに報告しましょう。ただし、報告も編集が必要です。売上が必要な時もあれば、コンバージョン数の時もあります。適切な報告をして、影響度を高めていくことが大事です」(宇野氏)
「どのくらい良い影響を与えるのか? 影響度合いを広げる時間はかかりますが、予算や人員は増え続けます。短期的な信頼は、長期的な信頼の創出を促します。今を未来につなげるための取り組みを決して諦めないでください」と菊池氏と宇野氏はセッションを締めくくった。
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