拡大する動画広告市場、現場の目下の課題は?
MarkeZine編集部(以下、MZ):サイバーエージェントが実施した「国内動画広告の市場動向調査」によると、2021年の動画広告市場は昨対比で142.3%に達する見通しとありました。急成長を続けている動画広告市場ですが、動画広告の運用およびプランニングにあたっている現場の目下の課題はなんですか?
前田:ターゲットリーチが重要なのは前提として、動画広告ではユーザーにしっかり視聴されたか、ブランド・プロダクトを理解してもらえたか、というところまで最適化していく必要があります。動画広告をどのような指標で、どう評価するかは業界全体で模索している段階だと思いますが、我々も悩みながら最適化に向けて取り組みを進めています。
もうひとつ、“動画広告の運用”は我々が特に注力しているところです。たとえば、ターゲティングとクリエイティブをセットでプランニング・運用し、当てるべきユーザーに動画を見てもらえるように設計する、といった取り組みを行っています。
小野田:市場全体の課題感としては、前田さんが話されたように「動画広告の効果測定」と「運用」の2つに関連する部分が大きいと私も認識しています。
効果測定については、動画を視聴した後にユーザーがどのようなアクションを起こしたのか、実際に購入に繋がったのかなど、リーチのその先を可視化することが今求められています。動画広告の運用については、これまでは施策の振り返りをする段階でリーチの数を集計したり、ブランドリフト調査を実施することが比較的多く、施策が走っている間に運用のPDCAが回らないという点は大きな課題でした。しかし、サイバーエージェントさんをはじめとする一部の広告代理店では、動画広告の運用を可能にする体制作りを含め次のフェーズへ進み始めていると見ています。
「NURO光」のOTT/CTV広告事例にフォーカス
MZ:サイバーエージェントが運用を支援しているソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO光」では、The Trade Deskを活用し、OTT/CTV広告を展開されていると聞きました。ここからは「NURO光」の事例を通して、最前線をゆく動画広告運用の現状を見ていきたいと思います。まずは、そもそもThe Trade Deskがどのようなソリューションを提供しているのかご説明いただけますか?
小野田:The Trade Deskでは、弊社が独自に構築・展開しているメディア・バイイング・プラットフォーム、いわゆる広告配信プラットフォームを提供しています。ウォールドガーデンの外に開かれたオープンインターネット上で、CTV/OTT広告やネイティブ広告、インストリーム/アウトストリーム広告、オーディオ広告など多様な広告をバイイングすることができます。日本の動画広告市場においては「TVer」「ABEMA」「GYAO!」と主要な動画配信サービスを網羅しており、幅広いリーチが可能です。
MZ:日本でもいよいよOTT/CTV広告の存在感が高まってきましたね。
小野田:そうですね。OTT/CTV広告の最大のポイントは、1インプレッションあたりの質の高さです。The Trade Deskでは、動画市場をUGC(ユーザー生成コンテンツ)とOTTの2つに区分して捉えていますが、OTTはプロが作るコンテンツなのでブランドセーフティの観点で安全性と確実性が担保されています。コンテンツそのもののクオリティも高く、CMを入れるタイミングもプロの視点で計算されているOTTのほうが広告が受け入れられやすいということは、定量的にも定性的にもデータで示されています。
MZ:先ほど「広告効果の測定」に関する課題が話題にあがりましたが、これに対してThe Trade Deskはどのような機能を持っていますか?
小野田:The Trade Deskでは、タグを用いた高度な効果測定が可能になっています。タグをページに埋め込んでおくことで、リーチの先にある視聴完了やサイト訪問、最終的な購買や申し込みなどの効果を実数ベースで可視化することができます。クリエイティブ別/配信タイミング別に広告効果の傾向をリアルタイムに分析することも可能なので、「動画広告の運用」にも寄与すると思います。
The Trade Deskでしかリーチできない層へアプローチ
MZ:では、「NURO光」での施策の概要を教えていただけますか?
前田:「NURO光」の案件は、2021年9月ごろからお取り組みを開始しました。スタート当時の課題感として大きかったのは「申込件数の伸び悩み」です。加えて、広告経由でどのくらい申込に繋がっているのか、リーチやクリック数ではなく最終的な広告効果を可視化したいというご要望もありました。すでにYouTubeで動画広告を展開されていましたが、YouTubeでは取り切れないユーザーが一定数いると想定し、OTT/CTV広告の運用をスタートしました。
The Trade Desk経由で配信している広告は、基本的にビュースルーコンバージョンで効果測定および運用を行っています。Twitter、LINE、Googleディスプレイなどの媒体も用いていますが、The Trade Desk経由でしか広告を届けられない層は一定数存在します。そこにしっかりリーチして、サービスを認知してもらうのが施策の狙いです。
MZ:ターゲティングとクリエイティブをセットで運用しているとの話がありましたが、「NURO光」ではどのような運用をされているのでしょうか?
前田:弊社では、ブランドクリエイティブというチームが、ターゲティングとマッチしたクリエイティブの企画・制作を行っています。クリエイティブについては、ブランドクリエイティブチームが主導となって、施策状況と配信ボリュームを見ながら進行しています。
鈴木:たとえば、2022年7月に電気通信事業法の改正がありました。サービス契約の解約における違約金が安くなることに関連し、潜在層/顕在層/違約金目当ての層/現在引っ越しを検討している層のそれぞれをターゲットにした動画を計9本ほど制作し、配信・運用していました。
効果改善を牽引しているターゲティング最適化の機能
MZ:ターゲティングの運用・最適化については、どうされていますか?
鈴木:The Trade Deskのデータをもとにペルソナに近いものを作成し、ターゲティング配信をしています。運用については、ターゲティングのオーディエンスごとにビュースルーコンバージョンの効果を可視化し、The Trade Deskで自動最適化をかけながら効果を改善しています。
The Trade Deskには、オーディエンス・プレディクターというルックアライクのような類似オーディエンスを探す機能があります。これを用いることで、たとえばコンバージョンしたユーザーを分析し、購入・申し込みしやすいTVer上のユーザーへ広告を当てていくといったことが可能です。この機能が全体的に効果を牽引している印象です。
前田:ペルソナの作成については、直接的なデータがあるわけではないので、商材である光回線を現在使っていない人はどのような背景があるのか、そうであればどういうペルソナになるのかと推察する形ですね。
運用のクオリティの高さが広告効果に反映
MZ:「NURO光」の施策では、OTT/CTV広告の配信により、どのくらい効果があがっていますか?
前田:件数の伸びについては開示できないのですが、商材認知は明らかに向上しています。光回線のカテゴリは大手の三大キャリアが圧倒的な認知度を有しており、「NURO光」は5~6位がランキングの平均値でした。そこから、最高2位まで認知度が上がった時期もあり、手応えを感じています。また、OTT広告はユーザーから受け入れられやすいという話が小野田さんからありましたが、1インプレッションあたりの質の高さは「NURO光」の施策でも実感しているところです。
MZ:The Trade Deskから見て、「NURO光」の施策の優れている部分はどこだと思われますか?
小野田:広告効果をリアルタイムで運用して最大化することにこだわりを持って進めていらっしゃる点は素晴らしいと思います。UGCとOTTで比較すると、やはりどうしても1インプレッションあたりの単価はOTTのほうが2~3倍高くなります。それでも、「NURO光」の施策ではCPAはUGCよりもOTTのほうがよい時もあるんです。広告運用のクオリティの高さが、広告効果に反映されていると見ており、運用の大切さを再認識する事例です。
MZ:「NURO光」の施策を通して感じられた、The Trade Deskのソリューションのメリットは何かありますか?
前田:タグを用いて、実数ベースで広告効果を計測できる点は、大きなメリットだと思いました。「このくらいリーチがありました」という粒度ではなく、「広告によって何件の申し込みがあり、うち何人が継続利用しているのか」という“リーチのその先”の効果を、クライアントは求めています。広告効果の可視化と、それにより可能になる精緻な広告運用・最適化は、クライアントへの提供価値に直結するところだと思っています。
もうひとつ、The Trade Deskのデータの母数の大きさによるメリットも実感しています。The Trade Deskが連携するDMPは国内でもトップクラスの規模および水準であり、ここのデータを活用できるのは大きいです。
鈴木:The Trade Deskの活用はメリットばかりです。我々の業務では、クライアントに新しい施策や企画をご提案する際のスピード感が求められます。その点、The Trade Deskは新しいメディアを次々と開拓されていて、このスピード感は我々にとって非常に魅力的です。
広告効果の最大化で広告主へ還元していく
MZ:これからThe Trade Deskでトライしてみたい施策などはありますか?
前田:これまでテレビCMなどの純広告では運用ができず、とにかく枠を買うことしかできませんでした。ですが、The Trade Deskでは、OTTの広告枠の購入に加えて、番組に合わせてクリエイティブを出し分けるなどの運用ができるメニューも出てきています。純広告のクリエイティブを運用する、というThe Trade Deskの活用は早々に実践したいと思っています。
MZ:Disney+、NetflixもCTV広告市場に参入し、一気に注目度が上がっています。この市場でThe Trade Deskはどのようなバリューを発揮していくか、最後に展望をお聞かせ下さい。
小野田:ここまで話してきたとおり、動画広告においても施策期間中のリアルタイムな運用が技術的に可能になってきています。注目の大型プレーヤーの参入も含め、動画広告市場は現在大きな転換期を迎えていると見ており、The Trade Deskがそこのゲームチェンジャーになっていきたいです。弊社はグローバルのCTV市場でリードしており、オムニチャネル戦略にも優位性を持っています。日本においてもトップCTV/OTTプロバイダへアクセスできるため、今後オムニチャネル戦略でCTV/OTTを活用し、広告主がターゲット層に効率的かつ効果的にリーチすることを支援していきたいです。
また、The Trade Deskは広告主への広告効果の還元に強いこだわりを持っていますが、これはサイバーエージェントさんの思想にも繋がる部分があります。サイバーエージェントさんも、クライアント企業の広告効果の最大化・最適化を大義名分とされています。同じところを目指す者同士、一緒にチャレンジしながら、いろんな広告主をご支援していきたいです。