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特集:2023年・広告の出し先

広告面としてどこまで使えるか? 2022年、日本のリテールメディアの現在地

日本の7年先をゆくリテールメディア先進国 米国の現状

──店頭サイネージだったり、アプリだったり、DSPにSSPだったり。リテールメディアと一口に言っても、人によってイメージするものがバラバラになっていそうです。稲森さんは、リテールメディアをどのように定義していますか?

 リテールメディアというと、当初は「店頭にサイネージをつけてメーカーの広告を展開する」みたいなイメージでしたよね。ですが、米国の最近の様子を見ていてもリテールメディアの範囲はかなり広がっており、たしかに定義が難しくなっていると思います。ただ、基本的にリテールメディアでは「小売が保有する購買データや顧客基盤を起点に、オフラインとオンラインのすべてのタッチポイントを媒体として捉えること」を考えます。つまり、店頭のサイネージもアプリ面も1つの顧客接点であり、広告メニューの1つにしかすぎません。小売が有する顧客とのタッチポイントとそこで生まれるデータを活かすというリテールメディアのベースは、米国でも中国でも日本でも共通しているものです。

──リテールメディア先進国の米国では、現在どのような展開になっているのでしょうか?

 私は、「クローガー・モデル」と「ウォルマート・モデル」の2つに分けてリテールメディアを捉えているのですが、特にウォルマートのビジネス展開やスピード感、投資額は桁違いです。日本のアドテク業界が十数年かけてやってきた発展を、ウォルマートはここ3年で成し遂げたのではないか、という印象すらあります。

米国におけるリテールメディアの成功モデル
米国におけるリテールメディアの成功モデル

 ウォルマートは2021年から広告プラットフォームの「WalmartConnect」を提供しています。これは、米国内にある約5,000の店舗とそこで展開している約17万面のデジタルサイネージ、そしてアプリやECというオフラインとオンラインのタッチポイントをSSPとして束ねたもので、WalmartConnectから広告を一括運用することができるようになっています。DSPは、TheTradeDeskと業務提携したことも話題になりましたが、TheTradeDeskを選んだところも、素晴らしい意思決定だなと思いました。

 WalmartConnectでは、「どこの店舗で/店舗内のどの場所で/どの時間帯に/どういうコンテンツを流せば売上が最大化するか」がAIで分析されており、広告クリエイティブの自動最適化や購買行動に合わせた広告表示の自動化も進んでいます。

 また、Walmartが買収や出資した企業を見ると、テレビ局との連携や双方向動画プラットフォームベンチャーへ200億を超える出資をしています。DSP最大手TheTradeDeskとの連携も含め、ウォルマートの成長はリテール市場とは言わず、広告市場やデジタル広告市場も無視できない規模になっています。

 よく米国は日本の5年先を行っていると言われますが、リテールメディアに関してはそれ以上、7年くらい先を行っていると言っても大げさではないですし、今の日本のスピードだと7年後に追いつくのも難しいかもしれません。

日本のリテールメディアはこれからどう発展していくか

──SSPの展開までできるのは、ウォルマートの店舗数や規模の大きさならではの戦略という一面もあります。日本のリテールメディアはどのように発展していくでしょうか?

 そもそも日本と米国とでは小売市場の特性がまったく異なります。ウォルマートはアメリカ人の約8割の買い物ユーザーを抱えていると言われるほどの市場シェアを持っているので、顧客接点をSSPとしてまとめるビジネス展開は合理的だと言えるでしょう。一方、日本は各地域に強い小売が存在しているので、上位2社合わせても20〜25%ほどの市場シェアしか有していません。これほど地域固有の小売がいる国は世界でも珍しいです。

 こうした市場特性を鑑みると、日本のリテールメディアはクローガー・モデルをベースに構築し運用をスタートしたほうがよいと考えています。ユーザー体験を第一に、CRMを起点とした広告メニューを開発し、外部メディアを活用しながら、順次オウンドメディアのメニューを拡充していくというアプローチです。

 ウォルマートのようにとてつもなく強い一社が存在していると、広告主側は「ウォルマートだけに出稿していればいい。そのほうが効率的だ」と考えるのが通常です。ですが、日本は恐らくこうはなりません。つまり、日本だからこそ中小企業でもリテールメディアで収益をあげられるチャンスがあるとも考えることができます。実際、リテールメディアの取り組みを始めているのは大手企業だけでなく、地方展開の企業も含め、中小企業にまで動きが広がってきています。ただ、広告主側からすると、一つひとつのリテールメディアで広告を運用・管理するというのはかなりの労力を要します。ですので、リテールメディアを一括で管理できるプラットフォームを構築するようなプレーヤーが出てきてもおかしくないと考えています。

──アドインテで支援しているリテールメディアは、今どのようなフェーズにありますか?

 弊社では、現在50社以上のリテールメディアをサポートさせていただいており、中にはリテールメディアで数億円の売上をあげる企業も出てきました。いずれもCDPに蓄積したデータを活用しながらSNSなど外部メディアに配信する仕組みは完成していますが、まだ試験的な取り組みが多いのも現状です。提供できている広告メニューとしては、自社のアプリを広告の面として活用するケースや、来店時のリアルタイム配信、ID-POSデータとアプリ会員IDを連携させてDSPで配信するパターンです。実際の出稿額が大きいのは、後者のほうです。

──なるほど。そうなると、リテールメディアを活用する広告主側もまだ試験的な施策として考えている状況でしょうか?

 そうですね。ただ、出稿いただくメーカー企業は昨年の倍以上に増えているので、Cookieレス時代に向けた施策の1つとして、広告主側の注目の高まりも非常に感じています。ちなみに、米国では2023年にはデジタル広告市場全体の出稿額のうち20〜25%がリテールメディアに置き換わる予測まで出ています。日本でこれほどの市場規模になるのは数年先だと思いますが、米国では相当なインパクトが広告市場に出てきていると言えるでしょう。

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広告の出し先としてリテールメディアを使うときのポイント

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2022/10/27 09:30 https://markezine.jp/article/detail/40347

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