※本記事は、2022年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』82号に掲載したものです。
本質的な悩みや欲求(インサイト)の発見
記事前編では、顧客分析リサーチの3つのプロセスのうち、2つを説明してきた。後編では、プロセス3「セールスポイントの発見」において必要な考え方やフレームワークを解説する(図表1)。
セールスポイントの発見に必要な最初の分析は、「インサイトの発見」だ。「顧客の深くて本質的な悩みや欲求を発見してから、カスタマージャーニーで顧客を動かすための施策に落とし込んでいきます」と阿佐見氏。
では、そもそもインサイトとは何か。阿佐見氏は「顧客自身が言語化できていない無意識の領域まで深く洞察して見抜く本質のこと」と説明する。消費者が自分の行動のうち意識しているのは5%で、残りの95%は無意識に行われているという調査結果もある。インサイトの発見のプロセスは「一部だけ顕在化している人の行動や意識への洞察を頼りに、その底に眠る本質的な悩みや欲求を発見していく」イメージだ。
インサイト発見のやり方の前に、前提として、プランニングの基本構造を押さえておきたい。
プランニングを行う際は、既に顕在化している悪い状態から理想的なゴールを設定する。その変化を起こすために、戦略と戦術を考えていく(図表2)。
阿佐見氏は自身が手がけた、「つけまつげ」の売上復活を事例に説明する。2011~12年にヒットしていた「DOLLYWINK」のつけまつげだが、2016年には「(つけまつげは)ケバい・バレる」といったネガティブな印象があり、売れなくなっていたという。これを図表2のプランニングの基本にあてはめると、問題は「つけまつげはケバい・バレそうという認識」で、「バレないナチュラルなつけまつげが使われる」というのが理想的なゴールになる。
すると、派手なつけまつげのイメージを払拭するために、バレないつけまつげを作るというアプローチになりそうだが、実は実際に「バレないつけまつげ」はたくさん発売されたものの、売れなかったという。
このように、顕在的な浅い悩みからゴールを設定するとよくある戦略・戦術になりがちだ。そこで阿佐見氏はペルソナを深く洞察して、インサイトを見つけることで、ゴールを設定した。
発見したインサイトは「マスカラもマツエクも結構面倒。より便利なものがあるなら使いたい」というもの。このインサイトからゴールを設定すると、望ましい理想的な状態は「今のつけまつげは進化していて、マスカラやマツエクより使いやすい、とターゲットの認識が変わる」ということになる。この変化を起こすために「10秒マツエク(新・部分用つけまつげ)」という戦術でアプローチし、リニューアル後の商品は大ヒットした(図表3)。
インサイトの発見で大事なポイントは「カテゴリーインサイトとヒューマンインサイトのどちらにも偏重しないキーインサイトを見つけること」だと阿佐見氏。カテゴリーインサイトは特定の商品カテゴリーやブランドに対する認識や感情、悩みや欲求であるのに対し、ヒューマンインサイトは商品と関係なく存在する、人としての普遍的な悩みや欲求のことだ。インサイトを探る際、カテゴリーインサイトに偏りがちだが、顧客を動かせる戦略と戦術は、普遍的で本質的なヒューマンインサイトも含むことで見つけられる。
たとえば「つけまつげは古いもの、時間がかかりそうというイメージ」というのはカテゴリーインサイトだが、「時間を効率的に使いたい」「節約したい」といったヒューマンインサイトを掛け合わせることによって「10秒マツエク(新・部分用つけまつげ)」のような戦術が生まれる。
ヒューマンインサイトを見つける手がかりとして、阿佐見氏は人間の16種類の心理的欲求を紹介した(図表4)。