グループ全体の価値向上がホールディングスの役割
—— 新スローガンの下で取り組んだ具体的な施策があれば教えていただけますか。
「幸せの、チカラに。」は、以前のスローガン「A better Life, a Better World」のように、各商品のテレビCMでパナソニックのロゴと一緒に使うことはしていません。なぜなら「幸せの、チカラに。」は、コミュニケーションスローガンではなくブランドスローガンだからです。つまり、私たちの存在意義そのものを伝えるときにだけ使っています。

この方針には、新体制になったことが関係しています。ホールディングスと事業会社の役割を考えるとわかりやすいでしょう。私たちホールディングスの役割は、グループ全体の価値を上げていくこと。一方、各事業会社の役割は自分たちの商品やサービスにフォーカスして競争力を高めていくことです。ホールディングスが各事業会社の商品広告に口を出すことはしません。
ホールディングスがパナソニックという共通のブランド価値を高める方法は、2つあると考えます。まずは、ここまで説明してきたパーパスですね。「幸せの、チカラに。」を伝えることで、グループとして皆さんのチカラになると約束します。もう1つは、環境問題へのコミットメント。カーボンニュートラルに向けた取り組みです。ブランドスローガン「幸せの、チカラに。」とは別に「Panasonic GREEN IMPACT」という言葉を制定し、中長期の環境ビジョンを伝えています。
グループとしての約束を「幸せの、チカラに。」に込めつつ、カーボンニュートラルへのグループとしての姿勢を「Panasonic GREEN IMPACT」という言葉で表明する。ホールディングスは、ブランド価値向上のためにこの2つのテーマで取り組んでいます。
エボークトセットを中間KPIに設定
——パナソニックという歴史が長く規模の大きな組織において、マーケティング戦略を刷新・浸透させる際の課題をお聞かせください。
売上規模が約8兆円、従業員数が約24万人の組織では、1つのことを流布させようと思ってもそう簡単にはいきません。コンセンサスを得るまでが非常に長いんです。私はこれまで様々な組織に在籍していましたが、規模が大きい組織の真の難しさを痛感すると同時に、挑戦できる醍醐味も感じています。
——そのように大きな組織で、新スローガンをどう浸透させているのですか。
コピーとしての「幸せの、チカラに。」は評価されている一方、やはり抽象的なコピーは事業との関係がわかりにくく、現場のマーケティングに結びつけるのは難しいと思います。そのため、下期からは7つの事業会社のメイン素材を「幸せの、チカラに。」の中に練り込むことによって、具体的にどういう形で幸せのチカラになるのかを発信していこうと考えています。
加えて、コミュニケーションの設計図を事業会社とグループブランドとでシナジーが担保できるように合わせています。その際、中間KPIとして置いているのが「エボークトセット」です。エボークトセットとは、想起イメージの集合体のこと。消費者が「ドライヤー」や「洗濯機」など、ある製品を買おうと思ったときに、頭の中に浮かぶブランドの集合体を指します。
私たちはシェアをコントロールできないので、エボークトセットに入ることを目指しています。エボークトセット内の順位が上がれば、お客様に選択される確率も上がる。するとシェアが拡大し、結果的に売上が増加します。そして、このエボークトセットに入るための相関係数が最も高い要素が好感度です。当社ではエボークトセットの理論にバイロン・シャープ氏の「ダブルジョパティの法則(※1)」や「NBDディリクリモデル(※2)」などを組み合わせて、オリジナルの考え方を編み出しています。
※1「市場浸透率(購買人数)が低いブランドは、購買頻度(購買個数)も低くなる」という説を唱えるもの
※2カテゴリー内の自社ブランド購入確率を表す指標