ゲーム領域とサービス領域のUXの違い
藤井:私はずっとUXに関わる中で、ゲーム業界の方とお話しするといわゆるサービス設計のUXとの違いを実感します。ゲームってかなり作り込んで形ができるまでプロトタイピングしにくいプロダクトじゃないですか。なので、心理的な効果とかユーザーは根源的に何を求めるかの部分をメソッドに落としていますよね。
どちらかというと私はサービス領域のUX中心に関わっているので、一定そういった認知や心理の方法論は使いながらも、商品ページなどの形でまずコンセプトを検証したりサービスのプロトタイプを作ったりできるため、リアリティのある形でユーザーからのフィードバックを得やすいんです。逆にこのようなユーザーのインサイトやペインポイントを理解したり、提供価値を研ぎ澄ましたりしやすい点は、サービス領域のUXの強みだと解釈しています。
伊藤:サービス領域のUXの作り方の基本はペインの解消であり、一方でゲーム領域は完全にゲインを提供する作りになりますよね。両者を組み合わせて、ペインを解消しゲインを得られる体験が作れるのであれば、ゲーミフィケーションといった形でセットにして考えるのが良いと思います。
藤井:ゲーム企業の方に聞いた話なのですが、ゲームのUXを考える時にペインを与えて負荷を貯めることをやるんですよね。普通マーケティングとかサービス領域のUXに関わっていると、「ペイン=解消するもの」って考えがちですが、ゲーム領域では逆に痛み・悩み・辛さなどをとにかくギュッと詰め込んで、それを解決した喜びで落差をつけてよりユーザーに気持ちよくなってもらう設計だそうです。
伊藤:その振れ幅をどれだけ大きくするかというのも、体験価値を最大化する一つの考え方ですよね。特にゲーム業界は、ユーザーのストレスがないフラットな状態から始まるので、体験を上げようと思ったらまず下げないといけないですから。
顧客とつながるストック型マーケティングの時代へ
藤井:本日はもう一つ、マーケティングにおけるファネルモデルの概念についても議論できればと思います。
今は顧客獲得のコストがどんどん上がっているし、プラットフォーム側にルールを変えられる可能性もありますよね。そもそも人口自体減っていることを考えるとこの図の左側、逆三角形のファネルにおける新規の余地が無くなってきています。

藤井:だからこそ、体験をきちんと作ってユーザーに提供し関係性を構築する、すなわち時間軸を伸ばす形になっていくと思います。それが右側のループする形のジャーニーで、買う前から買った後まで含めて体験価値を提供するモデルです。
まずユーザーは無料版・廉価版のジャーニーに入り、単発で終わらない関係性を構築できる体験によってファンになってもらい、右端の有料版のジャーニーに入ってもらう流れになっています。
久野:図の左側のファネルは商品をユーザーに売った瞬間に関係が切れる考え方なので、個人的に愛がない図だなと感じます。本当に自分たちの商品やブランドを愛していたら、それを買ってくれるユーザーもまた素敵な人だという気持ちになって、その人が購入後どう感じたのかどう使ったのかを知りたくなるのではないでしょうか。
企業側はそんなユーザーと関係をいかに続けていくか、価値をどう提供できるかを考えることが、これからのマーケティングやUXを考えるうえで大切だと思います。
伊藤:今までは、ずっとフロー型のマーケティングが主流だったと思いますが、今後はストック型で自分たちのサービスやプロダクトとつながる人たちに焦点を当てていくような思考転換がマーケティングに求められてくると感じます。
藤井:UXのコンサルティングをやっていて感じるのは、「ユーザーにとってあなたのサービスやブランドとつながる理由」って意外と企業側の盲点なんですよね。そして、そのつながる理由というのは商品とか業界とかに限定されない、質的なものが出てくるのではないでしょうか。これからはそのつながる理由をきちんと育んでいく、そんなマーケティングモデルが重要になると思います。