顧客接点でデジタルとリアルのシナジーが生まれた
MZ:取り組みの結果、どういった効果がでましたか?
川口:まず定量面の効果では、目標とするテーマを複数設定しておりそれぞれ効果が出ています。たとえば、「車両登録してもらう」というテーマの施策をアプリにリリースし、そのバージョンアップをしたところ、施策のリリース前後を比較して10%ほど登録者が増加しました。そういった実装と改善を積み重ねられており、大きな成果だと感じます。
また、ヤマハ発動機の顧客接点はデジタルだけではなくリアルもあり、このUXグロース活動から波及してリアル接点の改善も取り組む流れができています。たとえば、アプリからユーザーにそろそろ点検ですよというリマインドメッセージを出していますが、リマインド前に来店済みだったなどあまり有効なメッセージになっていないという課題がありました。
そこでいつも利用している販売店のディーラーと連携して、効果的なタイミングでリマインドするといった、デジタルとリアルの垣根を超えたサービス改善にも着手する動きが出てきたのは大きな変化です。
村松:私たちの取り組みというのは、元々リアルの顧客接点がベースだったビジネスモデルにデジタルの接点を付け加えるという視点から始まりました。ですからUXグロース活動に取り組む中で、リアルな顧客接点だけでは気づかなかった課題が、デジタルを通して見ることでどんどん洗い出されています。
加えて本活動の関係者は多岐にわたり、様々な部門の社員と進めていかなくてはいけません。データや課題を共有できることで認識をそろえ合理的な判断を積み重ねられる点も、今回の取り組みの成果だと感じます。
進藤:体制構築の部分でも支援させていただいておりますが、企画メンバーだけでなく様々な部門で関与してくださる方が増えていく中で、UXグロース活動の考え方が浸透し目指すゴールや課題感などの目線もそろいつつあると思います。改善や分析を教える立場になる方が出てきて、社内で自走できる体制が整う方向に向かっている点も感じますね。

部門関係なく共通の視点を持ち、選ばれ続けるブランドへ
MZ:最後に、今後の展望やビジョンをお伺いできればと思います。
山田:進藤さんのお話にもありましたが、川口のような元々システムエンジニアとして参画していながら顧客体験、カスタマージャーニーの視点を意識して語れる人材の育成をもっと進めていきたいですね。各部門がそういった視点を意識できるようになれば、より良い体験を顧客に提供でき、かつ部門間の連携も促進されるのではないでしょうか。
やはり私たちのような製造業の会社はものづくりに最適化された体制になっており、全部門横ぐしで事業を進めるには苦労が多く、サービス提供に適した組織体系も作りづらいと思います。しかし、すべての業務は部門や領域関係なく、最終的には顧客の体験やカスタマージャーニーにつながっていきます。ですから、そこをどれだけ皆で意識できるのかが重要です。
顧客の皆様は、何かを実現したくて私たちのプロダクトを選んでくれます。私たちはそれを実現するお手伝いをしていきたいです。大きな解釈をすると、その顧客一人ひとりの夢の実現のためにプロダクトとサービスでサポートする、そんなブランドを目指しています。
村松:ヤマハ発動機のバイクを持っているからこういう体験ができたという価値を提供し、パートナーとしてそばに置いてもらえるようなブランドになっていけたらと思います。バイクを乗っている時、持っている時が一番楽しい状態であってほしいので、そのフェーズでも伴走できるようにしたいですね。
川口:システムエンジニアの視点では、まずはアプリのさらなる改善、そしてUXグロース活動全体の質も上げていきたいです。チーム全員が同じUXグロースの視点や考え方を持ち、ゆくゆくは全社的に広げていきたいと思いますね。
進藤:ビービットとしては、今後もヤマハ発動機の皆様と伴走しながら、支援をさせていただけたらと思います。
UXグロース活動に着手するうえで一番大切だと思うのは、まずは1回実践してみることです。仮説を持って実際に取り組み、それを振り返ることで知見や成功体験を積むことができます。その際の仮説を立てるために、何らかのシステムやツールを入れて定量データを取るだけではなく、実際に使った人に話を聞くことも選択肢の一つです。
加えて、UXグロース活動は継続的な取り組みが非常に重要です。続けることでデータや知見が社内で貯まり、メンバー間の共通認識も持てるようになります。そうやってグロースを重ね、顧客目線でより良い体験を提供できれば、長く選ばれ続けるブランドになっていくのではないでしょうか。