「一人十色」から共通項を見出し、生活文脈を捉える
生活文脈を考えるということについて、もう少し詳しく解説したい。生活者の生活は断片で構成されているわけではない。生活とは連続性を持っている。
だから、このチロさんの食卓シーンの13時半に登場した「手をかけないランチ」について、お昼は手をかけたくないのね、で終わってはいけない。この日は前日の鍋の残りがあったから登場しただけで、鍋の残りがなければ登場しなかったかもしれない。もっと言えば、この日はいいお天気で溜まった洗濯ものを一気に片づけたから忙しくて、それを見込んで、前日の夜は鍋にした、という理由があったから、ということも考えられる。だからこの1シーンを切り取って、昼食は手をかけないものを食べがち、と断定するのは早急すぎる。
別の日は生活動線の連続性の中で手の込んだランチを食べることもあるのだ。私たちの生活は十人十色ではなく、一人十色である。この考えのもと気づきを得ていけば、性年代や家族構成などを超えて、共通項が見つかるはずで、従来のn=1分析のサンプル論には陥らないと考える。
生活シーンの読み解きに活用できる「TPOPP」
さて、個票の例を提示したが、膨大な写真データを見ていて気づきが得られるマーケターやリサーチャーは個票作成の作業は省いてもよい。大切なのは、この次のステップである「TPOPP」に沿って気づきを整理してみる、ということである。
分析の際に「Occasion」の視点が落ちることが多いが、前述の通り、生活文脈を考える上では外せないものであるので欠くことがないようにしたい。Occasionとは「機会」のことではあるが、もう少し詳しく言うと「気持ちが動くフックとなった事柄」である。
それはたとえば「クリスマスだから」だとか、「年末だから」といったイベントや「ぽかぽか暖かかったから」といった季節、天気に代表される文化的催事という視点と、「毎週金曜日は子どもが保育園から洗濯ものをたくさん持って帰ってくる」といった生活的催事という視点の2つが存在する。Occasionは生活文脈に大きく関わっていて、それによっていつもと違う生活シーンが登場することになるから、読み解く際には一考すべきである。
それを踏まえ、下記のように整理してみるとよい。
このときProductについては、言葉にせず、生活シーンをそのまま張り付けたほうがよい。なぜなら、私たちマーケターやリサーチャーは、どうしても「商品」を探しに行き、どんな「商品」で構成されているかを考えてしまう癖があるからだ。この時点では自社のマーケティング課題などの情報はいったん置いて考えるべきで、生活シーンから「気づき」を得るには余計な情報は排除するべきである。でないと違和感や気づきを得ることは難しい。
そして気づきを列挙していき、さらにキーワード化してみるという作業をする。このときのワーディングは従来言語とするべきではない。そうしてしまうとせっかくの気づきが陳腐化するだけでなく、新しくもないものになってしまうからである。コピーライティングのように考えるとよく、マーケターやリサーチャーのクリエイティビティが必要である。
