BtoB企業のブランディングとは
MZ:ここまでBtoC分野の話が多かったのですが、次にBtoB分野にも目を向けたいと思います。MarkeZineの読者の中にも、BtoB企業のマーケティング職に従事していて、CXの向上に向き合っている方も多くいらっしゃいます。
BtoBにおいても、契約を取って終わりではなく、長期的な関係性を築くためにサービス化が叫ばれていて、使い続けてもらうためにいかにCXを向上させるかが1つのテーマになっています。この点について田中先生はどのような見解をお持ちですか?
田中:まずBtoBと一口にいっても、鉄鉱石を売っている会社もいれば、限られた業種向けにオンラインサービスを提供している企業もあり、非常に幅が広いので総合的に傾向を分析するのは難しいのです。
ただ、おっしゃるようにBtoBは商品を納入して終わりではなく、継続してサービスを提供したり、販売した商品に対しても責任があるので、それは大切なポイントだと思います。だからこそBtoBはブランドの信用力が大きく問われるわけです。製品・サービスを提供している企業が突然撤退したり、アフターサービスがなくなると大変なことになるので、そこを保障してくれるのがブランドになります。いわば、将来のCXを現在のブランド力で保障することになります。
MZ:BtoBのブランドを構築するのは、BtoCより時間がかかるのでしょうか。
田中氏:BtoCだと一般的には顧客の数が多く、しかも個々の顧客の顔が見えにくい特性があります。このために、従来のテレビなどのマスメディアは、多額のマス広告を投入することでブランドを築いてきました。マス広告が全盛の時代は、コストがかかっても短時間でブランドを築くことが可能でした。しかし近年のようにテレビ視聴が下り坂になり、若者がテレビを観なくなると、こうした短期間でのブランド構築がむつかしくなり、Webを用いてブランド力を高める戦略を選択せざるを得なくなりました。
一方、BtoBだと、顧客数がある程度限られているため、オンラインメディアや展示会などのプロモーション、タクシー広告などのコンタクトする顧客が限定的なメディアを通じて、戦略的にブランドを構築することができると思います。ただ、ブランドとして確立することがBtoC、BtoBでどちらが楽とは言えないと思います。
マーケティング業界のトレンドを見きわめる目
MZ:これまでトレンドについて伺ってきましたが、私たちメディアはつい「来年はこうなる」「今はこれが大事だ」というように、1年間に何個も出てくるトレンドキーワードを煽りがちになります。これは自戒を込めてですが、トレンドを押さえることは大事という前提に立ちつつ、そのなかから本質的なものを見きわめる力を持つことが大切です。アカデミックの領域でも同様だと思いますが、先生はトレンドを見きわめるためにどのような視点をお持ちでしょうか?
田中:前回話に出てきたパーパスではないのですが、1990年代前後にメセナ活動というものがありました。文化・芸術活動を支援する企業活動を意味し、フランス語のmécénat(文化の保護)に由来します。
なぜこの活動が大きくなったのかといえば、儲け一辺倒だけではダメで「企業としてそういうことをやる必要がある」という空気が醸成されてきたからです。当時もやはり企業のなかにメセナ担当者という役職がありました。
今でいうと、それこそパーパスやSDGsに近いのですが、実は「SDGsが盛り上がっているのは日本だけ」といわれています。日本は別としてグローバルに見るとやはり活発な取り組みがなされているとは言えないでしょう。かといって、SDGsを止めろと言っているわけではありません。そうした現実を知りながら取り組むことが重要だと思います。
メセナにしろSDGsにしろパーパスにしろ、悪いものではないのです。ただ、やっていることの流行り廃りはどうしても出てくる。私はこうしたトレンドの底流に何があるかを常に考えるようにしています。
環境問題も人種や性別の差別も貧富の差も大切な問題ですし、企業の文化芸術活動支援も、やはりやったほうがいいことであることは間違いありません。問題はそれをどれぐらい本気でやっているかです。私は、企業が自分たちで未来を信じて実行に移してやっているということが大事だと思うので、何年か経って「流行ってないから止める」といって中途半端に放り出すことだけは避けてもらいたいですね。大事なのは信念と理念だと思います。
