行動データの把握で売上5倍を実現した施策
続いて小野寺氏は、2つ目のテーマが「カスタマーエクスペリエンスの成功物語」について語った。
「行動マーケティングで重要なのはタイムリーさ」だと小野寺氏はいう。そして350万ダウンロードされたYAMAPユーザーの行動を読み解き、タイムリーに実施して成功した施策を紹介した。
ヤマップでは、コロナ禍において「低山人気」や「山小屋の人数制限」という情報をいち早く把握し、コロナ拡大直後にある山道具の売上を急拡大させた。それを可能にした理由は「リストの有効活用」だったという。
低山人気、山小屋の人数制限の情報をいち早く仕入れることができた背景には、YAMAPユーザーの行動データを常に収集しているからだ。
「ヤマップはアプリのアクティブユーザーが居住エリアから何キロ圏内の山に行ったのか、どの山に行ったのかなどのデータを日本でどこよりも多く持っています。そのため、コロナ禍でガラッと登山形態が変わったこと、ユーザーに行動変容が起きていることも素早く気づくことができました」(小野寺氏)

山小屋の人数制限が厳しくなれば、自然と日帰り登山者の割合が高くなる。そこでヤマップが想定したのが「日帰り用のコンパクトなバックパックの需要増」である。そして実際に仕入れを増やしたところ、想定の5倍の売上になった。
社会全体の動きを把握しただけではない。ヤマップでは、自社からユーザーへのコミュニケーション方法も変えていった。具体的には「山には行きたいけれど、山小屋には宿泊できない人たち」に対し、日帰りでも楽しめる山を紹介するようにしたという。これも日帰り用バックパックの需要を引き上げたと考えられる。
ユーザーの行動を把握したうえでのアクションが売上増につながる。その裏側には、カスタマーエクスペリエンスの徹底した研究があることがわかる事例だ。
「歩行速度」だけで広告効率が向上。リスト活用のポイントとは
次に小野寺氏は、ユーザーの位置情報から「歩行速度のデータ」を取得することによって提供する情報を変えるというユニークな施策を紹介した。
「歩く速度が秒速○m以上という形でスピードの速いユーザーを抽出し、その方々に向けてトレイルランニングの記事広告コンテンツを当てました。すると、その他の層と比べて閲読率が144%となりました。これは、『歩くスピードが速い人たちはトレイルランニングをしている可能性が高い』という仮説を持って行った施策です。結果として、広告の無駄打ちを避けることにつながりました」(小野寺氏)
年齢や性別などのデモグラフィックデータは一切関係なく、「歩くスピード」がわかるだけで、広告効率を上げることができる。この事例は、リストの作り方のヒントになるのではないだろうか。
小野寺氏は、「最も大切なのは行動を把握できるアクティブリストの存在」と述べる。行動属性をリストにすることで、カスタマーエクスペリエンスを高めることができ、よりユーザーにとって価値の高い施策を打つことができるのだ。
