「雑誌がすべて」ではなくなった2010年代
酒井:その空気が、2010年代に入ったころから変わっていった?
塩谷:やはりそのころから「雑誌がすべて」ではなくなってきたのだと思います。ファストファッションのような安くてかわいい服がいっぱい出てきて、雑誌に出てくるファッションをそのまま買う時代ではなくなった。
ファッション誌の置かれている状況がどんどん厳しくなるなかで、CanCamとしても立ち位置を見直さなくてはならない。2012年から2014年にかけては、当時の編集長が「CanCamはファッションだけじゃなく、ライフスタイル全般を提案する雑誌である」という方向に舵を切っています。その次の編集長は、独自の造語を次々と生み出しながら、エッジのある世界観を打ち出していました。
そんな感じでいろいろな試行錯誤があった時代なので、毎号登場する鉄板のキーワードみたいなものが減っていったということなのではないかなと思います。
佐藤:ところが、2010年代後半になると、「流行」や「人気」という言葉が再び増加傾向になります。
塩谷:私が編集長を務めていたのが、ちょうど2015年から18年です。
今言ったような試行錯誤も含めて、いちど全部をまっさらにして、「CanCamってなんだろう?」と考えたとき、やはりCanCamは「ファッションを中心に発信していく雑誌」だという原点に立ち戻ろうということになりました。「流行」や「人気」も、自分たちで引っ張っていくべきなのではないかということで、私は割と意識的にこれらの言葉を使っていたと思います。
ナンバーワンからオンリーワンへ
酒井:2000年代から2010年代にかけての変化で言うと、「本命」「勝負」などの言葉が徐々に減っているのも興味深いですね。

兵庫:2000年代、特に前半の2003~2005年は、「めちゃモテ」がキーワードだったように、「男の子にモテる」みたいなところでの「勝負」だったんですよね。わかりやすく言うと、合コンで一番人気になりたい。「本命」というのも、男の子にとっての本命になりたいというニーズを表した言葉だったと思います。
そういう「男の子に選ばれたい」みたいな目線が少しずつ変わっていった。一番になってモテるということがすべての幸せではないと言うか……。その変化が、スマホでいろいろな情報が取れるようになったからなのか、あるいは震災などによる世相の変化が影響しているのか、そのあたりは分析が必要ですが、2000年代と2010年代では大きく空気が変わったと思います。
塩谷:2008年にリーマンショックがあって、2011年には震災がありました。そのあたりを境に、世の中からギラギラした油分が抜けていったように思います。
20代の人たちにとって、「今日が勝負だ!」とファッションに気合いを入れるという気持ちそのものは本質的に変わらないのかもしれませんが、それを雑誌サイドが打ち出すことに、なんとなく「寒さ」を感じてしまう。果たしてそれで、読者がCanCamを買おうという気持ちになるのかな?ということは、少なくとも2015年ごろは常に検証していましたね。

加藤:小学校の徒競走で順位を付けないような時代に育った人たちにとっては、「勝ち負けを決めることがなんでいいんだっけ?」みたいな感覚なんでしょうね。そういう世代が読者になってくると、もはや「勝負」という言葉は響かないのだろうなと思います。
安井:ナンバーワンよりオンリーワン世代ですよね。
佐藤:「勝負」が消えた代わりに、2010年代に入ってから増えたのが「最高」「自分」という言葉です。
安井:他人と自分を比べなくなるなかで、「自分にとっての最高を目指そう」みたいなモチベーションが大きくなっていったことの表れだと思います。「自分史上最高」みたいなフレーズとして、よく使っていましたね。