(1)地上波テレビの終焉、および、電波オークション
まず、一つ目の「(1)地上波テレビの終焉、および、電波オークション」についてだが、地上波テレビ放送の終焉は、おそらく、欧米の業界人にとっては常識で、時間の問題とみられている。たとえば、イギリス公共放送BBCのティム・デイビー会長が昨年の12月7日に以下のように話している。
「テレビ放送はゆくゆくおわる。私たちも完全なネット配信への移行に前向きに動くべきだ」
これは、テレビ関係の団体「ロイヤル・テレビジョン・ソサイエティ」での講演からの引用だ。「テレビもラジオもなくなり、インターネットだけになる将来に備えて動いている」という。(参照:「BBC会長「地上波テレビはおわる。ネット配信の完全移行に動くべきだ」。2030年の展望を語る」)
要するに、BBCは将来、放送電波を返上する。これは、2030年の展望として語られているが、以前には「2034年をターゲットに据えて同社のDistribution & Business Developmentという部署で検討を進めている」(参照:「遅延もはや地デジ並み、「NHK同時配信、BBC電波返上」議論の裏に映像配信の急速進化」)と報道されており、今回のBBC会長の講演内容からすると、4年前倒しになっている。
このBBCの電波返上の話について私は、確か、2018年の電通総研の会議で初めて耳にした(当時の私は電通総研のカウンセル 兼 フェローだった)。このとき、同時に議論になったのが、電波オークションについてだった。
先日(2023年1月24日)の日経の記事「5G向け電波オークション、25年度までに導入 総務省」にあるが、日本でも電波オークションが始まる。東京大学 大学院経済学研究科 および 公共政策大学院 教授の渡辺安虎氏によれば、OECD38ヵ国で導入していないのは日本のみらしい。
「オークションの利点は高い透明性を保ちながら、電波から最も高い価値を生み出せる事業者への割当を可能にする点である。また電波の経済的価値を反映するため、落札金額は時に数兆円規模に上る。国庫収入に大きく貢献することも知られている。
このような利点から米国では約30年前から導入され、経済協力開発機構(OECD)38ヵ国で導入していないのは日本のみだ。アジアでも韓国、インド、タイなど大半の国ですでに実施済みで、未導入は中国や北朝鮮などだ。」
この電波オークションの導入は、NHKをはじめとした日本のテレビ局の電波返上に向けた布石とみられている。なぜなら、今後、社会のデジタルトランスフォーメーションが加速するにつれて、電波が逼迫する見込みだからだ。
自動運転車やスマートシティ、スマートハウス、スマート農業など、社会全体のデジタル化で懸念されるのが、ネットワークの問題である。つまり、電波が足りなくなる。周波数の逼迫と放送用周波数の有効活用については社会的課題のひとつになっている(参照:総務省電波利用ホームページ)。
山田 肇氏(情報通信政策フォーラム理事長、東洋大学名誉教授)は、「テレビ局が電波を返上する日に備える必要がある。返上した電波は移動通信事業に利用できるので新たな経済価値が生まれる。一方で、災害時の代替手段を確保するのに費用が掛かる。このバランスがプラスになるのであれば、政府は電波返上に誘導する方向で政策を展開できる」と主張している(参照:「テレビ局が電波を返上する日は来るか」)。
さらに、経済学者の高橋 洋一氏(元内閣参事官、元大蔵・財務官僚)は、電波オークションについて次のように書いている。
「現状では、放送は、地上波テレビ用だけで470-710MHzで40チャンネル分も占めていて、貴重資源の利用方法としてはあまりにもったいない。」
(出典:「高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ ノーベル経済学賞に「電波オークション」 日本のテレビで説明できない理由」)
「OECD38ヵ国で導入していないのは日本のみ」になってしまった理由は、日本のテレビ局の既得権益を守り、テレビ局に電波を格安で融通してきたからだといわれている。だが、テレビ局の優遇が終わるのも、時間の問題だ。テレビ産業の成長が見込めなくなってしまった以上、政府として、日本の経済成長、かつ、電波逼迫の現状を鑑みると、BBCと同様に日本でも電波返上を急ぐべきだろう。
地上波のネット同時再配信も、もちろん、電波返上に向けた準備とみてもいい。つまり、BBCの会長がいうように、今後10年で「テレビもラジオもなくなり、インターネットだけになる将来に」備えて、広告業界は準備していく時期にきている。
