ケースと事例、一体何が違うのか?
続いて、MarkeZine編集長の安成がメディアとしての視点から同書の読みどころを紹介。まず「事例とケースは似て非なるもの」として、同書のケーススタディと事例記事を比較した。

たとえば同書で扱われているケースの一つである「レクサス」は、MarkeZineでも過去に事例記事として取り上げているが、重点が置かれる部分が異なっているという。ケーススタディでは、市場導入時の4P戦略やSTPといった体系的な分析および背景の考察など、基本的なマーケティングのフレームワークに沿って事例を分解。時を経ても変わらない普遍的な学びや、体系的な分析の方法を知ることができる。
一方、事例記事ではグローバルのブランドマネジメント方針とローカルマーケットの整合性の取り方といった実践的な内容や、口コミを引き出すコミュニケーションアプローチおよびブランドエンゲージメントを高めるコンテンツマーケティングなど、具体的な手段にフォーカスされる。実務で参考にできる、具体的なアイデアを学べる内容となっているのだ。
ケーススタディと事例記事の違いをふまえた上で「どちらが良いという話ではなく、バランスよく両方を読み進めるのが良い」として、実務者の向き合い方についてメディアの立場から提言した。
区別しておくべき3種類のケースとは
現在は同書をはじめとした書籍や、MarkeZineなどWeb上でも多くのケーススタディや事例記事が溢れている。実際にマーケターや企業がケースを活用する上で、どんなことがポイントになるのだろうか?田中氏によれば、ケースは大きく分けて3種類あるという。
1つ目は、「教育素材」としてのビジネスケース。ハーバード・ビジネス・スクールで使われるケーススタディなどがあてはまる。このタイプのケースは、実際にあった事象を分析するもので、「あなたならどうする?」という問いを考えるための素材として活用される。
学ぶ側の意思決定力向上を目的に使われ、実際に実務面で真似るためのものではないため、明確な回答も用意されていないのが特徴だ。そして注釈として必ず「このケースは失敗や成功を論じるものではない、典型例や模範事例でもない」と書かれている。
2つ目は、「研究方法」としてのケーススタディ(事例分析)だ。理論の定石に反したケースや従来の理論をくつがえすケースなど例外的な事例を研究することで、理論を再検討・再構築するために活用される。
3つ目は「現実理解」のためのケーススタディとなり、同書に掲載されるケースもこれにあてはまる。実際に起きた事象を理解しビジネスのヒントを得るためのもので、理論を体現する例として使われるケースだ。
マーケターが実務の情報収集やヒントを得るために触れるのも、3つ目のケースがほとんどだろう。しかしこのようなケースから学ぶためには、ただ模倣するだけではうまくいく保証はないと田中氏。そもそも各ケースが違う経営者・状況・会社で起こった事象であるためだ。他社の手法はもちろん、自社の過去の成功パターンを再現したとしても、なお同じ結果が出るとは限らない。