ドラッグストアを情報の発信基地に
このDXの一環としてリテールメディアに取り組む同社だが、きっかけは何か? 東日本大震災が契機だったと小橋氏は振り返る。
「東日本大震災が起きた際に、ドラッグストアは社会インフラの1つであると再認識しました。各地域に密着した店舗があり、お客様が日々足を運んでくださる場所なのです。ですから、私たちは情報の発信基地でもあるべきだと考えるようになりました」(小橋氏)
特に近年では新聞やテレビを見ない生活者も増えてきた。スマホが大きな情報源ではあるが、一方でリアル店舗もまた新たな情報に接触するポイントになりうる。では、どうすればいいか? 構想を練っていた2018年頃に小橋氏は稲森氏に出会い、海外のリテールメディア動向を知ったことで自社での実施を決めたという。
「我々小売はお客様に来ていただくのですから、お客様にとって有益な情報を提供するメディア事業を推進していくのは必然だと考えました」(小橋氏)
手探りでも進められる担当者が重要
当時リテールメディアという言葉すら知られておらず、社内では反対される以前の問題だった。まったく新しいビジネスモデルのため、何かに言い換えて伝えることも難しい。その中で小橋氏がリテールメディアを推進できた理由の一つが、経営戦略本部の立ち位置だ。
「ツルハグループの研究室として、まずはチャレンジすることが承認されている部署です。現場に影響が出ない範囲から取り組みを進めました」(小橋氏)
リテールメディアを始める際に大事なものとして小橋氏は「人」「物」「金」の3点を挙げる。完全に新しいことを始める場合、正解がない。最終地点が1つだけではないため、手探りで進める必要がある。その中でも、突き進んでいける「人」を担当者として据えることが必要だ。また、どこまで「金」、予算を使えるかを見据えることも重要だ。
答えが見えない中でも億単位で投資するのか、それともスモールスタートにするのか決める必要がある。そして、いつまでにどのような「物」を作るのかしっかりと定め、覚悟をもって進める。パートナー選定も重要だが、この3点がないと立ち行かないと小橋氏は力説する。
「リテールメディアが流行っているからやってみよう。だけだと、うまく進まないと思います。形だけを作って結局動かないことになりかねません。『人』『物』『金』の3つをまずはきちんと考えることが必要です」(小橋氏)
リテールメディアは買い物体験を軸に考える
小橋氏は今後のリテールメディアの展望について、まだまだこれからだと前置きをしつつ「買い物ついでに様々な情報がお客様に届いて、新しい消費行動を起こすきっかけになれば」と語る。自社の利益追及に終止せず、地域ぐるみの情報発信基地として存在感を発揮することが目標だ。
リテールメディアの支援を進める稲森氏も、リテールメディアは小売店舗や広告主のメリットだけを考えるのではなく、「やはりユーザー体験の向上につながるかどうかが非常に重要な軸だと思います。我々もそこを考えてお手伝いをしていきたい」と語り、セッションを締めくくった。