国内外のパーパスを落とし込んだ施策事例を紹介
MZ:他に注目した事例を教えてください。
東:環境への配慮で知られる米パタゴニアは2011年、「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を出しました。この広告は消費が盛り上がるブラックフライデーの広告だったこともあり、非常にセンセーショナルでした。
必要以上に消費を増やすと環境にダメージを与える、という強いメッセージです。「利益以上に優先することがある」と考える同社の企業姿勢が、顧客の信頼につながっています。
また民泊仲介を行う米Airbnbは、パーパスに「Creating a world where anyone can belonging, anywhere(誰でも、どこでも、居場所がある世界を作る)」を掲げています。同社は「帰属」に価値を見いだし、誰でも受け入れられる安心感ある社会を目指しています。米国で甚大な被害をもたらすハリケーンの被災者を支援する活動もそこにつながっています。
さらに同社は、同性婚を支援するキャンペーンも積極的に実施。一見パーパスとは遠いように感じられますが、誰もが「自分たちがここにいてもいい」と感じられる帰属意識を守ろうとしているのです。物質的な帰属先だけでなく、心のよりどころとして「結婚」は象徴的な制度ですから、安心感やインクルージョンが生まれます。これも、パーパスがアクションに反映されている一例です。
企業の判断を、顧客は見ている
MZ:国内ではどのような事例がありますか。
東:ESG戦略として「Kirei Life Style Plan」を掲げる花王が挙げられます。コーポレートスローガン「きれいを こころに 未来に」でも、花王が社会へ提供するの価値が「きれい(Kirei)」という言葉で表現されています。
同社では社員登場型コンテンツの「Kao Do it」などを通じて、「Kirei」を自分ごと化した社員一人ひとりが「Kirei Life style Plan」を表現。また生活者と直接つながる双方向のデジタルプラットフォーム「My Kao」を運用し、ユーザー一人ひとりの多様な「Kirei Life」の共創に取り組んでいます。
MZ:現代の多様な個性や社会に対して、真摯にブランドが向き合っているんですね。
東:別の事例として、ワークマンは「機能と価格に、新基準」をパーパスとして掲げ、世の中にない高機能ウェアを低価格で提供することで表現しています。そして社内教育によって、それが社員に浸透しています。
パーパスを理解した社員によって実施されたのが、アンバサダーマーケティングです。ワークマンのファンである顧客をアンバサダーとして迎え、一緒に商品を開発しプロモーションを実施しました。「こういうのが欲しかった」という顧客の生の声を聞きながら商品を作ったのです。「何が欲しいか」を聞くだけの方法とはまったく異なり、商品を作るプロセスに顧客を巻き込んで満足感を高めた好事例です。
MZ:最後に、これから企業が進むべき方向性を教えていただけますか。
東:これからの時代に企業が社会に対してどんな存在であるのか、それを定義したのがパーパスです。現代は、パーパスにどれだけ真摯でいられるかが求められます。
不安定な社会状況の中で顧客に選ばれるブランドになるには、企業が「答えがわかりきっていること」をやるだけでは物足りません。簡単に正解が出せないことに対し、どう判断するのか顧客は見ているのです。
だからこそ企業は、自分たちが進むべき方向を示す判断軸を企業全体で共有することが必要です。それができる企業やブランドが新しい時代にリーダーシップを発揮し、成功していくのだと思います。
