テレビCMに出稿していた企業も、デジタル広告費に注力
──マスコミ四媒体の広告費は、前年を割り込む結果となりましたが最近の傾向を教えてください。
北原:2020年頃は巣ごもりの影響もあり、マスコミ四媒体もプラスに転じましたが、2022年は巣ごもり需要が収まり、長期的な減少トレンドに沿う結果となっています。
北原:テレビCMにおける、金額の大きい広告ですとスポーツイベント系になりますが、コロナ禍以前と比べると、まだ回復しきっているとは言えません。また元々テレビCMに多く出稿していた企業が、コロナ禍を通じてインターネット広告に対する理解が深まり、出稿戦略を変えてきているところもあります。
また、新聞・雑誌では販売部数の落ち込みや休刊が目立っています。こうした紙媒体の流通の減少が広告費にも影響してきています。一方で新聞・雑誌にまつわるデジタル広告費が伸びてはいますが、紙の広告費の落ち込みを補えているかというと、難しいところとなっています。今後の動向に注目していきたいポイントです。
マスコミ四媒体由来のデジタル市場、ラジオ・テレビが伸長
──ラジオは唯一マスコミ四媒体広告費の中でプラス成長となりましたね。
森永:そうですね、この成長にはradikoも大きく貢献していると思います。積極的なデータ活用が放送波でのラジオCMにも活かされ、「ながら聴取」もできる音声メディアの良さに一定数評価が集まっている印象です。ラジオデジタルの広告費も前年比157.1%と大きく伸長しています。
出稿傾向の高いジャンルとしては、外食・各種サービス、エンターテインメント系も含む交通・レジャーが多い印象です。
メディアイノベーション研究部 主任研究員 森永陸一郎氏
クリエイティブ部門、コーポレート部門を経て2012年から現職。「日本の広告費」などの調査・分析における実務主担当。(写真は本人提供)
──テレビメディアデジタルはどのように見ていらっしゃいますか。
森永:テレビメディアデジタルは、TVerやABEMAなどが挙げられます。ABEMAはFIFA ワールドカップ カタール 2022の実況中継期間中に過去最高のWAU(Weekly Active Users)となるなど注目を集め、その後もユーザー数は堅調に増えています。
同媒体の広告出稿の傾向としては、地上波テレビCMと同じ素材を配信することも多いようです。業種的には通販系をはじめ、化粧品やラグジュアリー系商材の広告出稿も多い印象です。
インターネット広告費が増加した要因は?
──インターネット広告費が増加した要因を教えてください。
北原:先ほども少し触れましたが、ECプラットフォームが引き続き伸びていたり、デジタル化が進んでいたりする、今までの大きなトレンドがそのまま継続された結果が数値として表れています。
モノが売れない時代をサバイブするために、企業は様々なデータを組み合わせながらターゲティングし、PDCAを回すことが求められています。担当者はやはり費用対効果が求められてきますので、インターネット広告に軸が移っていくことは自然な流れかと思います。
北原:インターネット広告費の内訳を見ていくと運用型広告が全体の85.4%を占めており、成長をけん引しています。前年比ですと115.3%成長の、2兆1,189億円と推定開始以降初めて2兆円を突破しました。
森永:運用型広告が増加している理由として、コロナ禍において消費者の検索行動が年齢・性別問わず非常に増えてきています。2022年は、旅行やエンターテインメント関連の検索数が非常に増えており、そこに付随した広告の出稿量も増えている状況です。
その他、SNSをはじめ動画の広告素材を使う機会が増えている影響で、動画広告費が増加を続けています。このあたりは若者とのコミュニケーションを図るために活用されているのが多い印象です。
北原:一方でYouTubeは40代以降にも見られています。コネクテッドTVの広まりから、テレビのリモコンからYouTubeを楽しまれる方が多いようです。対応したテレビは半数程度となっていますし、テレビの視聴行動も変わってきていることを受けて増えています。コネクテッドTV市場自体も拡大しています。実際「テレビメディア関連動画広告費」は前年比140.6%と大きく増加しました。
