Targetの戦略3ステップを分解
【1】地域性を武器に、フルフィルメント投資として店舗価値を最大化
Targetが重視しているのが「地域独自の価値創出」のための「店舗フルフィルメント」機能への投資だ。たとえば、郊外のテキサス州フリスコにある「Super Target」のフロアは約16,000㎡以上あり、東京ドームのグラウンドがすっぽり入るほどの敷地面積を持つ。繊細な日本の生活者でもSuper Targetであれば品揃えに歓喜するほどだ。
「広大な土地がある米国だから」と高を括るなかれ。都心部マンハッタンのSOHOの店舗ならば、さながら日本のコンビニから習得したような単品食材(お弁当類)や日用品を並べつつ、高級ブランドのコスメ・化粧品(高利益率)を揃えるビジネスを展開している。一方で、高級住宅街であるイーストビレッジの店舗は、小ぶりな生鮮食品スーパーに特化させている。Target社というブランド軸での品揃えでなく、地域(顧客)に合わせた商品展開をする姿勢に「パーパス」が見える。
こうした地域顧客への適応が見えるのは、2歩先を行く「フルフィルメント」投資のおかげだ。Targetは「Store as Hubs(店舗が顧客とのハブ)」として、オンライン注文の95%の発送を店舗側で処理している。新設の店舗型は、バックルームのフルフィルメントスペースが従来よりも5倍広い。単に照明や素材で店舗空間にTargetらしさを醸し出すだけでなく、「Shop-in-Shops」の設置やピックアップカウンターの充実、カーブサイドピックアップ用の屋根を設置するなど、顧客がつい来店したくなる投資が満載だ。
【2】TargetのDNAが生きるPB戦略
Targetは2017年に発表した新マーケティング戦略に基づき、アパレル、家具、生活雑貨、食品、化粧品、アルコール、ペットフードと計57までPBを増やしている。57ブランドのうち10ブランドが年間売上1,000億円規模(10億ドル)、うち4ブランドが2,000億円規模(20億ドル)にまで成長した。
売上の約3割を占めるPBはお手頃な価格(コスパは標準)でありながら、「デザインはTargetのDNAの中心」とし、ROIで測りにくい部分に投資効果を見せている。たとえば、「Target Clean」というカテゴリーでは、Targetが開発した化学物質不使用のPB商品だけでなく、環境配慮やクルエルティフリー、ビーガン、フェアトレードなどを謳った若いブランドへの投資育成も進めている。目に見えない部分への投資も含めたデザイン力が、「Ulta Beauty」「Disney」「Lego」「Apple」といったハイブランドの「Shop-in-Shops」としての卸展開を実現させている。
【3】パーパスは対外メッセージではなく、自社の組織から
2023年1月に開催されたNRF(全米小売業協会)主催のイベントで、TargetのコーネルCEOは『The future of retail leadership』と題し、自ら4名の女性役員と共に登壇。Targetとして向き合う「多様性の文化」を一貫して強調していた。
セッションの要約
- 企業文化を(今一度)再定義し、新組織チームの方向性と価値観の相互確認を最初の起点とする。
- 「インクルージョン」の概念とは、採用から業績評価までを含む企業の中核的な価値観である。この価値観は、雇用慣行や環境作りだけでなく、商品やデザインにも反映されている。
- 強い文化とは、チームを気遣い彼らの意見に耳を傾けることから始まる。これは結果的に顧客の利益にもつながる。
コーネルCEOは手放しではなく、2022年の決算での純利益は前年比6割減を報告し、1,000億円単位のコスト削減も発表している。次なる顧客体験の向上と長期的な成長への次の一手はいかに。