顧客から目を離さなければ、経営者としてずっと成功し続けられる
西口:お客様が求めるものは日々変わっていき、企業はそれを理解し続けなければなりません。その意味では、顧客起点マーケティングにゴールはないと言えます。
お客様がお金や時間を使ってでも欲しいもの(価値)に焦点が合っている限り、そのビジネスは継続します。アソビューも、もしかしたら、変化するお客様のニーズに応え続けていった先の10年後には形を変えた違う事業をやっているかもしれません。つまり、ビジネスの中身が変わったとしても、顧客から目を離さければ、経営者としてずっと成功し続けますし、顧客に対して価値を作り続けることができます。
宮本:今、アソビュー!では、小さなお子様のいるファミリー層をメインの顧客としています。みなさん最初は、ベビーカーで行けるようなレジャー施設をよく利用されますが、少し身体を動かせるようになったり、キャラクターもののコンテンツを好むようになったりとお子さんが成長するにつれて、遊びの選択肢は増えていきます。小学校中学年くらいになると、家族ではなく友達と遊ぶ機会がぐっと増えるので、親御さんにとっては家族でのお出かけが貴重なものになりますし、中学生になると部活動が始まるので、家族でのお出かけは年に1~2回の旅行という非日常のものになります。今、アソビュー!のロイヤル顧客である、小さなお子さんのいるファミリーに対し、今後も価値を感じてもらうためには、今お話ししたようなニーズを繋げていかなければならないわけです。
3世代、4世代と続いているレジャー施設さんを見ると、子供、親、おじいちゃんおばあちゃん、孫と、顧客の時間軸をよく考えられていらっしゃるなと感心します。この視点がベンチャー企業である僕たちにはまだなく、向き合い続けていきたいと思っています。ただ、一つ新たな扉を開くと指数関数的にサービスの便益やコミュニケーションがどんどん生まれてくるので、すごく難しいなとも思っています。
数字と統計的処理の限界から脱却せよ
西口:それを楽しいと思えるようになったらいいですよね。僕は楽しいんですよ。色々な会社のビジネスを日々見ていますが、どんなビジネスでも最終的には同じ人間を相手にしているはずなのに、「この業種ではこれが付加価値、お金になるんだ」とか「こんなことにそんなに時間を使うのか」とか、いつも発見があります。たしかにとても難しいですが、人間理解が深まるようで、楽しいんです。
ビジネス、特にマーケティングでは数字と統計的処理が多用されます。たとえば、需要予測モデルを使って、売上予測を数字や数式で証明したり、あるいは統計学上の有意差を分析してみたり。これはこれで大事なのですが、恐らく、それをやっていても大きな結果は出せません。有意差が生まれたり、意外なところで数値が上下したり、その裏側にあるお客様の顔と心理と行動が見えた時にこそ、ビジネスを伸ばすことができるのです。
マーケティング業界は両極端な話になってしまう傾向があって、「顧客の心理はこうです」「統計学上はこうです」と片方だけの議論になっていることが多いと感じています。そうではなく、数字と顧客心理を紐づけて見る、つまり両方やることが重要です。
現状、マーケティング業界にいる多くの方々は、顧客起点の部分が決定的に欠けていて、ここがないからマーケティングが面白くないし、結果が出ても継続性を生み出せません。顧客起点マーケティングの裏テーマは「数字と統計的処理の限界からの脱却」だと思っています。宮本さんを含め、アソビューのみなさんは、まさにこのパターンから脱却していかれていると思います。
宮本:僕自身もそうでしたが、デジタルマーケターや、ITスタートアップにいる方々は数字に依っていることが多いと思います。ですが、顧客起点の意識を持つことで、お客様も結果的には自分たちも幸せになれるのではないかと思うのです。お客様の声を聞くというのは、遠回りのように感じるかもしれませんが、実はこれが最短距離だったんだと、西口さんとのセッションを通じて痛感しています。
MZ:顧客起点マーケティングの事例は、まだあまり世に出ていません。今回は貴重なお話をありがとうございました。アソビュー!の顧客起点マーケティング事例は、『アソビュー録:顧客起点マーケティングの実践例』で実際の数字も含めて詳しく解説されているので、読者のみなさんにはぜひこちらも読んでいただければと思います!