データの力を投じて新しい価値の創造を目指す
有園:島田さんとは、以前からたびたび情報交換をさせていただいています。島田さんは2018年に東芝に入社、最高デジタル責任者を経て2022年3月に社長に就任されました。MarkeZine読者の方には、書籍『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』の著者としても目にした方が多いかもしれません。
東芝は、生活者の立場では家電が身近ですが、企業としてはエネルギーやインフラ分野で大規模な事業を展開し、政府や自治体との仕事も多いですよね。そこに近年では、データビジネスが加わっています。
島田:確かに、東芝は皆さんの生活を支える社会インフラ事業を長く続けてきました。一人ひとりの安心安全な暮らしと、社会や環境の安定の実現に向け、データの力を生かし、「繋がるデータ社会」の構築にも取り組んでいます。これまで培った社会インフラを支える知見や技術を土台に、データの力を最大限に生かすことで、新しい価値の持続的な創造を目指しています。
有園:島田さんから見て、東芝はどんな会社でしょうか?
島田:一言で表すと「人と、地球の、明日のために。」という理念に忠実です。世の中にないものをつくることを通して、理念を達成する。これを純粋にモチベーションとする人たちが集まって会社ができあがっていると思いますね。儲かるかとか、難しそうといったことはさておいて、「誰かがやらないといけない一番難しいことにチャレンジしていく会社」です。
どんな事業や取り組みでも、理念に反していないか議論します。また、データビジネス関連は社外から採用した社員も多いですが、理念を共有できるかどうかをとても重視しています。
「ものづくり」は、あくまで手段
有園:データビジネスでは、モノのインターネットと呼ばれるIoTの領域が今どんどん大きくなっています。そうすると、東芝のようなものづくりの企業のデータビジネスへの参入が強まるのは必至だと思う一方、やはり歴史のある大企業だけに動きづらいところもあるのでは……とも思ってしまうのですが、データビジネスについてどう向き合われていますか?
島田:あまり、ものづくりの会社だからこそ、といったことは考えていないんです。ものづくりはあくまで手段であって、我々の目的はいつの時代も、人を幸せにすることです。そのときどきのテクノロジーの進化と世の中の課題を踏まえて、我々は何をどうするのがベストかを模索するという発想です。
そして、インフラと完全に分離してしまったサイバーの世界をつなぎ合わせた時に生まれる価値を、人のために使うことができていない問題を解決することで、人に対して新たな価値を提供すると考えているわけです。
かつては家電やPCなどをつくっていましたし、発電所に納めるタービンなどもつくっていますから、おっしゃるように東芝といえばハードの印象が強いと思いますが、我々としてはハードかソフトかといったことも関係ないですね。
有園:なるほど。先ほどうかがったように、理念に忠実に、世の中を見渡してまだないものをつくっていくと。
島田:はい。すべてユーザーの視点ありきで、かつ先進的だと思ったらとりあえずやってみる。一方で、自分たちの開発だけにこだわらず、世界標準であると思うものはどんどん取り入れています。IEC(国際電気標準会議)への協力や提案もたくさんしています。
また、ビッグデータ・IoT向けに開発した超高速NoSQL DBMS(データベースマネジメントシステム)である「GridDB」は、発表当初からオープンソース版もリリースしています。