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MarkeZine Day 2025 Retail

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

口コミで拡大を続けるLUSH 背景にある、社会課題に踏み込む「キャンペーンカンパニー」の姿勢


【特別寄稿】調査データから紐解く、具体性が築く新しく強いコミュニティ

 デジタル領域ではパーソナライズという言葉が既に浸透しています。しかし、SDGsやサステナブルを掲げる企業で、具体的な社会課題に対しての、踏み込んだメッセージや活動を軸に、生活者や従業員自身とパーソナルな強い接点を持てているケースは多くはないのが現状ではないでしょうか。

 CNNの調査では、オーディエンスの4分の3近くは、サステナブルな活動を展開する企業ほど高く評価しているという結果が出ており、また、上辺だけではなく、その活動が確実に実行されているエビデンスを求める傾向もわかっています。同時に、生活者だけではなく、企業で働く約70%の従業員が「明確な目的を持たない企業では働きたくないと思っている」という調査結果もあり、自社のパーパスの「具体的な取り組み」が、社内・社外にもたらす影響を示しています。

 LUSHの小山さんとの対談で感じたのは、パーパスに基づき具体的に示し実行することが、不透明な時代だからこそ強いコミュニティを築くうえで重要な要素であるということです。具体性が築くことのできるコミュニティの特性を以下の二つの観点から考察していきます。

「社会に役立ちたい」人を惹きつけるコミュニティ

 対談の中で印象的だったのが、「『社会のために何か協力したい』という人は世の中にたくさんいますが、みんな何をしたらいいのかわからないのです」という言葉でした。

 実際に、内閣府の「社会意識に関する世論調査(令和4年12月調査)」では、日本において約64%の人が「社会の役に立ちたい」という思いをもっています。しかし、日々忙しく過ぎていく生活の中で、社会のために「自分にできる具体的なこと」に明確に気づいて実行している人は決して多くはありません。

 日本財団による18歳意識調査でも「国や社会に役立つことをしたい」と思う人は61.7%となっており、決して低い割合ではありませんが、一方で「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と考える人は26.9%と、世界と比較してもとても低い割合になっています。

 最近は多くの企業が「パーパス(存在意義)」を掲げていますが、それにはどれも抽象的な表現が含まれます。パーパスを本質に届けるためには、そこに沿った具体的な活動が必要になります。同時に、パーパスを見つめた時に、その実現に欠けている「盲点」に気づかない限り、いつまでも「何をすべきなのか」を具体的な活動に落とすことは難しいはずです。

 だからこそ、小山さんが伝えていたように、その「盲点」を埋めるために社会の様々な課題に対して『具体的に何ができるのか、どんなアクションにつなげてほしいのか、行動を促す道筋をつけることが必要』であるという言葉は大きな説得力を感じます。

 特定の社会課題へ対して具体的かつ踏み込んだアクションをすることにリスクもあるかもしれません。しかし、社会に役立ちたいと考える生活者へ、具体的に「自分はこの活動をともにできる」という共感をもってもらえることが、企業が強いコミュニティを築くために求められている事のように思います。

「自分らしい」具体的な意見を持つ従業員が創るコミュニティ

 Edelmanの調査結果では、企業が長期的な成長を収めるうえで最も重要なステークホルダーは、2019年は「顧客/クライアント」が最多であったのに対し、2021年のコロナ禍以降は「従業員」が最多となりました。そして、冒頭でもご紹介した通り、その従業員の約70%が企業に明確な目的を求めており、従業員の多様性を尊重しながら、具体的な社会課題へ対する一貫した姿勢を示す方法はどの企業も模索しているのではないでしょうか。

 LUSHは、従業員へキャンペーンの参加を強制することはなく「自分がどう思うのか」という意思を何よりも大切にし、自由なスタンスを前提に多様な従業員の意思を尊重しています。そのための社会課題に対するラーニングの機会をしっかりと儲けていることもわかりました。この押し付けない姿勢があるからこそ、LUSHの具体的な社会課題に対する姿勢が「問い」となって、従業員同士、そしてお客様との「対話」というコミュニケーションの誘発につながっているように感じました。

 「対話」は、あるテーマに対して、それぞれの「意味づけ」を共有しながら、お互いの理解を深めたり、新たな意味づけをつくりだしたりするためのコミュニケーションです。自分とは異なる意見に対して、良い悪いという判断を下さずに、どのような前提からその意味づけがなされているのか「理解を深める」ことを大切にしています。結果として、お互いにとっての共通の新たな意味の発見に至ることにもつながります(参考:学術出版社『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』)。

 従業員にとって、自社の示す具体的な社会課題に対する姿勢が「問い」となり、その「問い」から「自分らしく」お客様と対話がされていること。そして、お客様もその「問い」を自分らしく持ち帰れる。お互いの理解を深め、LUSHという場が新たな意味の発見の場になり、多様なコミュニティの創造の場となっているように感じました。

 私は、毎回LUSHの店舗に伺った後は、そのカラフルな商品と素敵な香りに目や鼻が癒やされていると同時に、決して押し付けではなく、店舗で見かけたメッセージから「優しい問い」を自分に持てているような状態になります。今回の対談で、その理由が理解できたように思いました。(特別寄稿:白石愛美)

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/11/30 17:58 https://markezine.jp/article/detail/42411

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