クリエイティブ分野から生成AIが登場した衝撃
有園:西口さんは、ご自身でAI系のサービスをいろいろと試されていると思います。ChatGPTやMidjourneyが出始めたころから、かなり使い込まれている様子を拝見していました。『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)の最後の章でも、テクノロジーの発展がビジネスや生活をどう変えるかを書かれていたと思います。
西口:AIによるマーケティング領域の最適化は、遅かれ早かれ実現すると思っていました。著書で発表したフレームワーク「9segs(ナインセグズ)」の分析も、自動化が見えています。
レイ・カーツワイル氏が提唱したシンギュラリティを迎えるのは2045年だとされていますが、その手前で様々な分析も打ち手の考案もAIが自動化するし、特にデジタルマーケティングの広告やWebサイトの見せ方、LPの作り方などもAIで最適化されるでしょう。マーケティングもビジネスもすべて、多くの業務がAIに取って代わられるだろう、と。
ただ、こんなに速く生成AIまで発展するとは驚きでした。特に衝撃的だったのは、Midjourneyの登場です。生成AIが、クリエイティブ分野から登場したことが二重に衝撃でした。
有園:クリエイティブ分野から、というのがなぜ衝撃だったのですか?
西口:そのアウトプットが、人間の五感を直接刺激するものだからです。
生成AIよりも前のAIは、いわば裏方でした。一般生活者が触れるサービスや仕組みの裏側で、人間が担っていた業務を高速で代替していました。それが、人間が直接的に解釈できるアウトプットがもう登場したこと、さらにその生成AIがロジカルな言語生成ではなくビジュアルだったことが、輪をかけて驚きだったんです。
テキストなら頭で理解しますが、絵は感覚で受け止めますよね。そもそも、人間はロジカルな判断で経済活動を行っているようでいて、実は「欲しい」気持ちに基づく購買の判断などには多分に五感が関わっています。そこにダイレクトにAIが関与するのだと、驚愕しました。
人間の五感に直接AIが刺激を与えられるようになった
有園:なるほど、そんなふうにご覧になったんですね。
西口:裏方ではなく、表に出てきたこと、しかもそのアウトプットが人間にとって納得感があり、直接コミュニケーションできる。美しい絵もそうだし、AIアイドルなども象徴的だと思いますが、分野によっては人間の欲望をAIがダイレクトに満たすことができるようになったわけです。
すると何が起こるかというと、人の需要と供給の間にある様々な仕事がなくなっていきます。人が生きていく上で必要不可欠なものや欲しいと思うものと、その提供は、通常は大体一致しません。需要と供給のバランスを図るために、世の中のビジネスのかなりの部分が存在していましたが、これをAIが直接つないで圧縮することで、経済規模は縮む方向に行くはずです。
最終的には、世界の資源が最適化されると思います。それは長期的にはいいことだと思いますが、短期的には痛みをともなうかもしれないです、仕事がなくなるという点で。
有園:確かに、しばらくはその時期が続きそうです。パラダイムシフトが起きると既存の経済システムは効率化していく、それは歴史的に何度も起こってきたことですね。たとえば米国で自動車が普及してきたとき、馬車を扱う人の仕事は減っていったわけで。
西口:おっしゃるように、これまでも技術のブレイクスルーによって人間の仕事は変わってきたと思います。今回が過去のパラダイムシフトと違うのは、とにかくスピードが速すぎることです。
マーケティングやビジネスが目に見えて効率化するのがいつなのかの予想は難しいですが、たとえばサイバーエージェントではかなり早くからAIの研究開発に投資し、人も割いています。一方で、おそらく以前のやり方での制作を指揮するディレクター職は減っているのではないかと思います。