ECと自社メディアでChatGPTのパワーを活用
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずはお二人の担当領域や業務について教えてください。
岡崎:ビューティガレージは美容サロン様向けに美容商材をOMO型で提供する物販事業と店舗設計デザイン事業、開業と繁盛支援ソリューション事業でのビジネスを展開しています。
私たちマーケティンググループは、あらゆる顧客接点を通じて顧客体験の進化・改善を実現することで、当社のビジネスを拡大・加速させる役割を担っています。広報PRや、運営サイトのコンテンツ制作、マーケティングオートメーション領域の業務など幅広く対応しています。一貫してセールス観点ではなく、顧客体験を軸にしている点が特徴です。
中路:SELFは2014年の創業以来、ユーザーを理解するための仕組みを自動化してきました。2023年には学習・解析AI、ChatGPT、SELFエンジンの連携による、自動学習型チャットボットサービス「SELFBOT」をリリースしています。
ユーザー理解に強みを持つ当社のプロダクトと、情報を咀嚼して高精度なテキストが生成できるChatGPTを相互連携させることで、より拡張性の高いサービスとして活用いただくことを目指しています。
MZ:今回、ビューティガレージは美容サロンの独立開業を支援する情報サイト「SALONスターター」と、プロ向け美容商材ECサイト「ビューティガレージ オンラインショップ」でSELFBOTを導入したとのことですが、導入の背景にはどのような課題があったのでしょうか?
岡崎:自社メディア「SALONスターター」に関してはサイトの資産活用が課題でした。これまでコンテンツを累計350本以上作ってきたものの、過去記事をなかなか見てもらえない状況だったのです。
また、本サイトは開業に関心を持つ方にサイト上でノウハウを収集していただき、さらに詳しく知りたい場合は開業コンシェルジュに無料でオンライン相談をしていただく、つまり、見込み客の創出につながる仕組みになっています。ご自身で解決可能な範囲をより広くすることで、コンシェルジュへの相談というステップを踏みやすくしたいと考えていました。
ECサイト「ビューティガレージ オンラインショップ」については、既にカスタマーサポートとしてチャットボットを導入していました。しかし、シナリオ型のチャットボットは、自然言語を理解しているわけではないため、的外れな回答をする確率が非常に高い状況でした。これでは課題解決につながらないばかりか、顧客体験をむしろ悪化させているのではないかと感じていた次第です。
1人1人に合わせた、コンシェルジュのような対応を
MZ:チャットボットには様々なものがありますが、なぜSELFBOTを選んだのですか?
岡崎:SELF様がいち早くChatGPT連携型チャットボットを「サービス」として正式にリリース・提供されていた点が大きいです。私自身も以前からChatGPTの情報を収集していて、これらの課題を一定解決できるのではないかと考えました。一方で、AIは嘘をつくなどの問題もあります。当社は、事業会社として責任をもってお客様にサービスを提供したいとの思いがあり、SELFさんに相談してみたところ活用のビジョンが明確になりました。
MZ:SELFBOTと既存のAIチャットボットとの違いは何でしょうか?
中路:いわゆる「チャットボット」サービスでは企業様が管理画面で設定やFAQの準備など、運用に大きな手間が発生します。また、その手間に見合う自由入力に対する返答精度や、ユーザーの質問に答えられないなどの課題も多く発生します。
SELFBOTでは企業様はドキュメントやテキスト、該当URLやCSVなどの学習対象データをご準備いただくだけで、当社がAIによる解析とSELF×GPT連携によってSELFBOTを生成します。企業様は挙動確認とソースコードを貼り付けていただければ導入が完了します。
精度面についても、学習しているデータへの回答精度はもちろん、企業サービスと関係のない回答の制御など、ユーザーに伝えるべき情報を正しく届けるための機能も実装しています。
また、大事なポイントとしてセキュリティに関してお伝えすると、SELFBOTはAzure API経由のため、ユーザーの入力データがChatGPTの大元の学習に利用される懸念はありません。企業様が安心して利用できる環境をご用意しています。
また、SELF自体が創業以来、ユーザー理解をテーマとしたtoC(自社アプリSELF)・toBサービスを展開しており、今後のSELFBOTの拡張要素として、ユーザーの属性情報、閲覧履歴や購買情報、環境などに基づいた個別最適化提案も強化していきます。これにより個別ユーザーに対して、先回りした情報提案が可能となります。
MZ:ユーザー個別への最適化とは、いわゆるレコメンド機能とは違うのでしょうか?
中路:「近い属性の人が購入しているから、この人も購入するだろう」と統計学的なアプローチをするのではなく、ユーザー1人1人の属性を軸に回答します。
MZ:ユーザーからのインプットに対してアウトプットを単純に返すのではなく、キャッチボールのようなコミュニケーションや、コンシェルジュのような深い理解が可能なのですね。
相談からサービスインまで2ヵ月弱、スピードの秘訣とは
MZ: SELFBOT導入を決めてから活用までの流れもうかがえますか?
岡崎:当初はECサイトのカスタマーサポート領域での活用を考え、2023年4月中旬に打ち合わせをして、ゴールデンウィーク明けにはデモ環境が完成しました。その段階で本番環境とほとんど変わらない状態だったので、若干の調整を加えて、6月6日には公開しました。対応を進める中でオウンドメディアでも活用できそうだと確信して、4月下旬には両サイトへの導入を決めていました。
MZ:相談から実装まで非常にスピーディーですね。
中路:SELFBOTはChatGPT(LLM:大規模言語モデル)の機能を最大限に活用する前提で組み上げました。チャットボットを展開されている他社様は、既存で組み上げてきた仕組や管理画面などとの兼ね合いがあるため、ChatGPTを連携しようとするとシステム全体を再構築する時間がかかります。一方、SELFBOTはChatGPTの拡張性を想定したうえでゼロベースから組み上げたシステムなので、スピーディーな対応が可能です。
回答の精度は80%以上、相談の質も向上
MZ:導入による効果や反響はいかがですか?
岡崎:ECサイトに関しては定量分析をまだ十分に行っていないものの、以前のシナリオ型のチャットボットでは質問に対して妥当な回答ができた確率が50%前後だったものが、SELFBOTに切り替えた後の回答の精度は80%以上になりました。お客様の自己解決率および顧客体験を高められていると感じています。今後は回答範囲を広げることで、より体験を良くしていけると考えています。
「SALONスターター」は新規導入なのでビフォーアフターの比較は難しいですが、開業コンシェルジュへの相談件数が増え、担当者からは相談の質が上がったとの声もあります。
MZ:自己解決できる質問数が増え、かつビジネスにつながる問い合わせが伸びているのですね。ちなみに質問はどのような内容が多いのでしょうか?
岡崎:手続きや求人、資金調達方法についての質問が多いですね。中にはより曖昧な質問もあります。導入前は「どんな回答をするのだろう」と思っていたのですが、想像以上に文脈を捉えた回答をしています。
もちろんまだまだ不十分なところもあり、チャットボットだけで開業にたどり着ける状況ではありません。しかし、質問に対して的確な回答をしているため、開業を志されている方の背中を押すことができているのではないかと思います。
MZ:中路様から見てビューティガレージ様のSELFBOTの活用方法の特長や、他社のヒントになるポイントがあれば教えてください。
中路:まず日本においてChatGPTなどの新しい技術が出た際は、特に企業利用において“様子見”されるケースが多いです。一方、ビューティガレージ様はセキュリティ的な担保はもちろん前提とされますが、新しい技術をまず使ってみるというマインドと、カスタマーサポートから営業対応まで、顧客体験を軸にしたお客様のジャーニーをきちんと描いたうえで、どこでChatGPTを活用するのが良いかを検討されました。双方のスピード感やマインドが一致したことが、スムーズな導入を実現した秘訣だと思います。
また、「SALONスターター」の事例からわかるように、オウンドメディアや企業ノウハウにおけるSELFBOTの活用は他の企業様でも再現可能です。しかも、ただコンテンツURLを紹介するだけでなく、各URL内の情報を学習しているため、ユーザーの任意の自然言語での問いに対しても、高い精度で回答をすることが可能ですから、顧客体験やエンゲージメントの向上が期待できるかと思います。
ニーズや規模に合わせた活用が可能
MZ:SELFBOTを導入したいと考えた時、どのようなプランや活用方法があるのでしょうか?
中路:「ライトプラン」「ミドルプラン」「カスタムプラン」と大きく分けて3つのプランを用意しています。それぞれ企業様のニーズに合わせて選択いただくことが可能です。
ライトプランはFAQ対応、サイト内容の案内に限定したプランです。ドキュメントやURLを学習させるだけでユーザーの意図に合った返答をすることができます。ビューティガレージ様に現在ご利用いただいているのは、このライトプランです。
ミドルプランは、ライトプランの機能に加え、セールス活用や販売促進の提案、製品情報の提案など、ユーザーに積極的にサービスやコンテンツを紹介したい企業様におすすめしています。
カスタムプランは、企業単位でのオートクチュールのイメージです。ユーザーの本音や状態、環境をしっかりと把握したうえで、きめ細やかに対応したい場合におすすめのプランです。
最初はスモールスタートとしてライトプランを導入し、SELFBOTを活用することで何ができるかを確かめながら、プランを拡大していくことも可能です。
接客のプロが納得する接客を、デジタルでも
MZ:今後、ビューティガレージではどのような価値提供をお考えですか? その中で、SELFBOTをどのように活用したいか、ビジョンをうかがえればと思います。
岡崎:ビューティガレージがビジョンとして掲げる「開業と繁盛を総合支援する、サロンコンシェルジュNo.1企業」を体現するには、ChatGPTをはじめとするLLMはうってつけの技術だと考えています。
当社のお客様である美容サロンの方々はいわば接客のプロです。当然私たちも、接客のプロにご納得いただける接客をする必要があります。それはデジタルであっても変わりません。特にチャットボットの世界では、企業が持つ人格のようなものが、より現れやすくなると考えています。リアルのコンシェルジュに比べると、現状では当社のチャットボットで対応できる範囲はまだ限定的ですが、SELF様に相談しながら、より良い形でお客様にサービスを提供していきたいと考えています。
MZ:SELFでは、今後SELFBOTをどのように展開する予定ですか?
中路:ビューティガレージ様がSELFBOTで24時間365日質の高いカスタマーサポートを提供可能になったように、マニュアル化されたナレッジの自動化は進み続けるでしょう。この流れは止められないと思います。
SELFBOTでもカスタマーサポートや営業、メンタルケアなどの幅広い領域への拡大を考えています。また、ユーザー理解を強みとするSELFエンジンの各機能との連携をより密接にし、短期的にだけでなく長期的なユーザーサポートもできるようにしていきたいですね。そうすることで企業様は、企画や設計、デザイン、マーケティングなど、ヒトだからこそできることにより時間を割けるようになるはずです。当社もSELFBOTを通じて、良質なプロダクトやサービスを生み出す企業様にとって、必要不可欠な存在になりたいと考えています。