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企業の取り組みから考えるインクルーシブデザイン

住宅弱者と不動産会社をつなぐ、LIFULLが挑む事業としての社会課題解決

 外国籍やLGBTQ、高齢者など、様々な理由で住宅の入居審査に通らず、住まい探しに難航している人は少なくない。LIFULL(ライフル)が運営する不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」では彼等と不動産会社をつなぐ「FRIENDLY DOOR」を展開している。インクルーシブデザインスタジオ「CULUMU」を率いる川合俊輔氏がインクルーシブデザインを取り入れている企業へ取材する本企画。今回は「FRIENDLY DOOR」事業責任者の龔 軼群(キョウ イグン)氏に、取り組みの背景や企業が社会課題解決を事業化するためのポイントを聞いた。

就職前、外国籍の入居差別を目の当たりに

川合:龔さんはLIFULL HOME'Sの「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」(以下、FRIENDLY DOOR)事業責任者として、また、NPO法人等を通じて入居差別や貧困、難民の課題に対して精力的に活動されていますね。まずは龔さんについて教えてください。

龔:私は生まれが上海、育ちが日本の移民2世です。日本の大学を卒業して、不動産業界の不を解決するためにLIFULL(当時ネクスト)に入社し、今年で14年目になります。

株式会社LIFULL「FRIENDLY DOOR」事業責任者 龔 軼群(キョウ イグン)氏<
株式会社LIFULL「FRIENDLY DOOR」事業責任者 龔 軼群(キョウ イグン)氏

 最初の4年はLIFULL HOME'Sの営業で、その後企画職を経験した後、海外進出を担う国際事業を経てLIFULL HOME'Sの国内事業に戻ってきました。そのタイミングで自分がやりたいと思っていた住宅弱者の問題に改めてチャレンジしようと考え、2019年に誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指す「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」プロジェクトの事業と、様々なバックグラウンドを持つ人と不動産会社をつなぐサービス「FRIENDLY DOOR」を立ち上げました。

 当初は基幹事業であるLIFULL HOME'Sの企画マネージャーと、この新規事業を兼務していましたが、2022年10月から社内独立して今は「FRINEDLY DOOR」1本に絞っています。

 他方、2015年から「機会の平等を通じた貧困削減」を目指す認定NPO法人Living in Peaceに参画し、2017年に理事となり、その後代表理事になりました。さらに2022年6月に難民支援をしている仲間たちと一般社団法人 Welcome Japanを立ち上げ、そこの理事も務めています。

川合:住宅弱者への取り組みの構想はいつから持っていたのですか?

龔:入社前からです。むしろ住宅弱者の問題、特に自分が目の当たりにした外国籍の入居差別をなくしたいと考え、LIFULL(当時ネクスト)に入社しました。2009年頃、いとこの住まい探しを日本で手伝ったところ、ことごとく断られる経験をしました。2008年に政府が「留学生30万人計画」を打ち出して間もない時期でしたが、「留学生を増やそうとしているのに、住まい探しで断られたら何の意味もないじゃないか」と感じ、住まいの入居差別の問題を解決したいと思うようになりました。本当に社会を変えるならプラットフォーマーに就職するのが一番良いと考え、LIFULLのドアを叩きました。

原体験とボランティア経験から本業とNPOの両立を決意

川合:ご自身の経験から事業で解決しようと取り組み始めたのですね。ではNPO法人Living in Peaceに関わり始めたきっかけは何だったのですか。

龔:LIFULLの同期がきっかけです。同期が、フィリピンのスモーキーマウンテン(ごみ山と周辺のスラム街)に暮らす子どもたちの教育支援をするNPOでボランティアをしていました。実は私は子どもの頃、TVでスモーキーマウンテンの子どもたちを見たことがありました。私自身が日本でマイノリティとして生きてきた中で、不平等や不条理もいろいろ経験して、「生まれた場所は自分で選べないのに、それが違うだけで、なんでこんな思いをしないといけないんだろう」という気持ちがあり、それと相まって強烈な印象として残っていたんですね。

 いつか行きたいと思っていたので、ツアーに参加させてもらい、その時に一緒に参加したのがLiving in Peaceの理事でした。その後、スモーキーマウンテンの子どもたちを支援するNPOには時々ボランティアをしておりましたが、貧困問題を根本から解決していくLiving in Peaceのマイクロファイナンスの取り組みに魅力を感じて、2015年にメンバーとして加わりました。

川合:ご自身や周りの方々の境遇や経験から、世の中を変えたいというお気持ちが強くなっていったのですね。多様な原体験を持っている方々は世の中に多く存在すると思います。その方々の思いを事業化につなげることは重要な反面、非常に困難だとも思います。龔さんは、LIFULLでの本業とNPOの活動を両立する上で気をつけていることはありますか?

龔:平日の夜にNPOのミーティングが入ることが多いので、本業の時間をいかに効率的に進めるかを考えました。結果、生産性が上がりました。時短勤務あるあるとも言われることですが、タイムリミットがあるからこそ、取捨選択や優先順位の精度が高まると実感しています。会社で働きながら、NPOなどの活動をされている人も意外と多いんですよ。

不動産会社側の理解促進、接客の質向上の施策も不可欠

川合:龔さんが事業責任者を務めているFRIENDLY DOORのサービス内容についてもうかがえますか。

龔:FRIENDLY DOORは、外国籍やLGBTQ、生活保護利用者、家族に頼れない若者、フリーランスなど、住まい探しの際にバイアスがかかることによって、入居審査で断られてしまう人たちに親身になって寄り添う不動産会社さんと当事者をマッチングするサービスです。

FRIENDLY DOOR
FRIENDLY DOOR

 対応してくれる不動産会社は私たちが探して審査をするのではなく、不動産会社の店舗単位で自ら手を挙げてもらう形式です。参画してくれた各店舗には、対応の質を担保するために、高齢者、LGBTQ、外国籍、精神障害者等それぞれに合わせた接客チェックリストをオープンソースで提供しています。当事者が利用する検索サービスだけでなく、不動産会社やオーナー向けのセミナーも行っており、当事者への検索サービスだけでなく、不動産会社やオーナー側の理解促進、接客の質を上げる取り組みも推進しています。

川合:当事者と不動産会社、両方に向けたサービスやサポートを提供しているのですね。外国籍、LGBTQといったカテゴリはどのように増やしているのですか。

龔:最初は、外国籍、LGBTQ、生活保護利用、高齢者の4つからスタートして、徐々に増やしています。ポイントは、当事者や専門知識を持つ人たちと連携することです。

 外国籍については自分自身がよく理解していますし、LGBTQはIRISというLGBTQ当事者が経営する不動産会社さんと連携しています。同様に生活保護利用は、自立生活サポートセンターの「もやい」さん、高齢者は「R65不動産」さんと連携しています。その後、被災者や、シングルマザー・シングルファザー、障害者、家族に頼れない若者、フリーランスと対応の幅を広げてきました。中には、社内のFRIENDLY DOORのメンバーが当事者のケースもあります。

 当事者の皆さんは、日本社会においてマイノリティとして少なからず傷ついてきた経験があります。そのため、「この人は本当に自分に寄り添ってくれるのか」を非常によく見ています。そこをきちんと理解して、信頼を得ることが事業の中で最も大切です。そのため、マイノリティ当事者や支援団体といった方々と一緒に取り組むことを絶対条件にしています。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

川合 俊輔(カワイ シュンスケ)

 株式会社STYZ Chief Design Officer 芝浦工業大学デザイン工学部卒。 海外を拠点とするデザイン会社を経験した後、インクルーシブデザインスタジオ「CULUMU」を設立。多様なユーザー・生活者と共創するデザインプロジェクトを様々な業界・企業と取り組む。また、芝浦工業大学でUXデザ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/08/31 09:30 https://markezine.jp/article/detail/42895

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