ビジネス化が難しい領域でも、LIFULLがGOを出せる理由
川合:LIFULLのコーポレートメッセージは「あらゆるLIFEを、FULLに。」ですが、FRIENDLY DOORを始められたきっかけとのつながりは何かあるのでしょうか?

龔:むしろ、すべてですね。LIFULLは、コーポレートメッセージはもちろん、社是の「利他主義」のもと、すべての取り組みや事業を通して、社会課題を解決するソーシャルエンタープライズです。
特に住宅弱者の問題はビジネスになりづらい部分があります。たとえば家族に頼れない若者や障害者の支援は福祉の領域です。けれど、LIFULLはソーシャルエンタープライズであるからこそ、社会課題を解決する事業に対して「イエス」と言う企業です。これは企業としての社是や理念に基づく意思決定です。
社内のメンバーもこの思いを持っているので、FRIENDLY DOORの事業を展開する際も様々な部署からアイデアや声が上がりました。また、社会への貢献も人事評価に含まれるので、応援の気持ちが具体的なアクションにつながりやすい環境もあるかと思います。
CSR領域から予算を捻出
川合:FRIENDLY DOORにおいて大変だったこと、苦労されたことは何でしょう?
龔:立ち上げ時、予算もノウハウも何もないところからのスタートになったことです。2018年に「SWITCH」という社内の新規事業提案制度にチャレンジし、入賞して事業化が決まりました。通常なら、事業化の際は社内の新規事業室からノウハウや人や予算などのサポートを受けられるのですが、私のアイデアは住まい領域の事業だったため、井上から「新規事業室ではなくLIFULL HOME'S事業部の中でやったほうがいい」と言われたんです。
それはつまり、事業立ち上げのノウハウもサポートも予算もないということ。周囲のメンバーに協力を仰いで、開発リソースどうしようとか、予算はどうやって取ればいいのかなど、枠組みから作っていくことになりました。現在のLIFULL HOME'Sの事業本部長で取締役執行役員の伊東(祐司氏)や、取締役執行役員の山田(貴士氏)が相談役になってくれたことも推進力になりました。
2016年に社内で社会貢献活動が立ち上がり、事業を通じて社会課題に取り組みながら利益の一部を社会に還元する仕組みも作ってきました。実は、FRIENDLY DOORの立ち上げ時の予算の一部はここから充てられています。
川合:CSRからCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)に転換したのですね!それはすごいことだと思います。
龔:そうなんです。先行投資的にCSRから予算の一部を獲得し、コミットを約束してCSVとして事業を成長させるという流れは、企業が新規事業として社会課題の解決を進めていく時には一つの手でなないかと思います。FRIENDLY DOORもしっかり売上が立つことが証明できたので、役員や上長と交渉し、社内独立するに至りました。

当事者からのリアルな反響
川合:反対に、FRIENDLY DOORで嬉しかった反響や印象に残っている思い出などを教えてください。
龔:この事業は直接不動産会社に問い合わせが行くので、私たちにはユーザーの反応が見えづらいです。ただ、リリース当初にSNS上で「すごいサービスができた」「これはいい」といった当事者の投稿が見受けられました。これがものすごくモチベーションになりましたね。
また最近では、精神障害を抱えて生活保護を利用されている方で、今の家を出なければならないけれど、住み替え先が見つからずに困っている方からお問い合わせが来ました。何とか居住支援法人につないだところ、約2週間後に電話が来て「どうにか引っ越しできた、本当にありがとう」と伝えてくださいました。障害を抱える方の住まい探しの知識やノウハウが少ない不動産会社さんではきちんとした対応が難しいこともあり、希望する住まいに出会えなかった方が、FRINEDLY DOORを通して、新しい住まいが見つかったことに喜んでくださったことが嬉しかったですね。