手動ターゲティング時のクーポン利用率はわずか数%
――手動でのターゲティングに課題を感じ、AIを導入されたということですね。
手動の分析では取り扱えるデータ量に限界がありました。そのため、分析結果の粒度が「20代男性×炭酸飲料を購入」と少々粗く、ターゲティングの精度に改善の余地があったのです。

また、ターゲティングがうまくいかなかった場合に発生するコストも懸念点でした。ポテトチップスは当社の中で非常にメジャーな商品であるにもかかわらず、これまでの手動のターゲティングではレシートクーポンの利用率がわずか数%。つまり、クーポンを配布しても、大半の人が使っていない状態だったのです。
せっかくクーポンを発行しても、使われなければレシート印刷のコストは無駄なものになります。また、不要なクーポンでお客様の財布がいっぱいになってしまうと、店舗体験の毀損にもつながりかねません。本当に必要な人にのみクーポンを発行し、クーポン利用率を上げることは、新規顧客獲得数を増やすだけでなく、コスト削減やCXの意味でも重要でした。
AIを通じ、クーポン利用率は手動時の約5.7倍に
――AI導入の過程を詳しく教えてください。
最初に行った作業は、AIにターゲティングさせるためのベースとなる「教師データ」の作成でした。ID-POSデータを基にお客様の過去の購買履歴をAIに学習させる必要があったのですが、膨大なID-POSデータの取り扱いは大変だと判断。そこで、特定の小売店舗における購買データを抽出し、それを基に教師データを作成しました。
次に、教師データからクーポン利用率が高い顧客セグメントをAIで抽出。そして、このセグメントにクーポンを配布したときの利用率もAIで算出しました。すると、クーポン利用率が手動ターゲティング時の3倍以上という計算結果が出たのです。
その後、実際にクーポンを配布して利用率を確認したところ、クーポン利用率は手動時の約5.7倍という結果が得られました。現在では、予測上位のお客様に対して、カルビー ポテトチップスを扱っている全店舗でAIによるターゲティングに基づいたクーポン配布を実施しています。
――AI導入によりクーポン利用率は向上しましたが、その要因は何だと考えますか。
手動のターゲティングでは「併売商品」しか見ていなかったのに対して、AIによるターゲティングでは、より多くの顧客属性も分析対象にできたからでしょう。
たとえばAIでは「最近の購入からの経過日数」や「購入頻度」「購入金額」なども勘案し、総合的に分析して最適なターゲティングをしています。購入する商品の量や種類だけでなく、来店頻度などもクーポン利用率に影響するからです。手動ターゲティングでは見過ごしてしまっていたため、この点はAI導入の大きな成果といえます。
また、手動時は分析する併売商品のカテゴリーを限定せざるを得なかったのに対して、AIターゲティングでは食品全般のカテゴリーをより細かく分析できるようになりました。
AIの運用・管理は「DataRobot」というプラットフォーム上で行っています。たとえば「●●の商品を“買っていない”層」など、手動ターゲティング時には気づかなかった要素とクーポン利用率の相関関係なども見られるため、新たな分析視点が得られて良かったです。
