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「ADJUST IGNITE TOKYO 2023」レポート(AD)

「ヘブバン」「モンスト」のキーマンが語る、アプリゲームビジネスの今とこれから

 モバイルアプリの計測・分析ツールを提供するAdjustは、アプリマーケティング業界のリーダーを集めたカンファレンス「Adjust Ignite Tokyo 2023」を開催した。『「GAME IGNITE」アプリゲームビジネスの「未来」のために〜未来予測と課題認識。そして今から取り組むこと〜』と題されたセッションには、MIXIとWFSの二社が登壇。長年モバイル業界に携わるMOTTOの佐藤基氏がモデレーターを務め、成熟期ゆえの頭打ちが見られるアプリゲーム市場を再びIGNITE(発火)するためのキーワードをシェアした。本稿ではその内容をレポートする。

進むリッチ化と上がるサプライズのハードル

佐藤:本セッションのモデレーターを務めるMOTTOの佐藤です。様々なデータが示しているように、アプリゲームは日本において一大産業へと成長しました。マーケットがグローバルにも展開する一方、成熟期ゆえの頭打ちも見られます。そんなアプリゲームビジネスの現在と未来、そして未来に向けて今から取り組めることについて、業界リーダーのお二人と議論していきます。

MOTTO 代表 佐藤基氏
MOTTO 代表 佐藤基氏

佐藤:一つ目のアジェンダは「アプリゲームビジネスの現在」です。お二方にはそれぞれキーワードを用意していただきました。

異儀田(MIXI):私のキーワードは「低いサプライズ」です。直近のアプリゲームのトップセールスランキングを見ると、顔ぶれが大きく変わることはなく、驚きのあるコンテンツが出てきていません。開発者視点でも「これはやられたな」と思うコンテンツが出てきた記憶が直近はあまりないですね。

MIXI デジタルエンターテインメント事業本部 本部長 異儀田諭氏
MIXI デジタルエンターテインメント事業本部 本部長 異儀田諭氏
セガ、DeNAでゲームの開発に20年以上携わったのちMIXIへ。現在は「モンスターストライク」などのデジタルエンターテインメント事業を統括する立場。

異儀田(MIXI):先日6,000万ダウンロードを達成した「モンスターストライク(以下、モンスト)」は、おかげさまで10年間ランキングのトップ圏内にいますが、私たちは企業理念である「ユーザーサプライズファースト」を常に意識しながら、ユーザーに少しでも驚きを届けられるよう施策を工夫しています。とはいえ、モンストを日々プレイしてくださっているユーザーは我々が仕掛けるサプライズを享受しているかもしれませんが、外から見ているぶんには「変わり映えしない」と感じる方もいるでしょう。

小泉(WFS):私は「スーパーリッチ化」をキーワードに挙げます。中国や韓国のゲーム会社は、開発やプロモーションにかけるヒト・モノ・カネの規模が日本企業と桁違いです。そのため、超ハイクオリティのゲームを次々と生み出しています。

WFS マーケティング部 部長 小泉義英氏
WFS マーケティング部 部長 小泉義英氏
「消滅都市」「アナザーエデン 時空を超える猫」「ヘブンバーンズレッド」などのRPGを展開するWFS(ライトフライヤースタジオ)でマーケティングを担当。

小泉(WFS):中国や韓国のゲーム企業が、潤沢な資金でハイクオリティなゲームをつくり、メガプロモーションで日本に進出していることで、ユーザーがゲームのクオリティに求めるレベルが日に日に上がっています。日本企業が新しいサプライズを届けたくても、サプライズのハードルが上がっているわけです。ここに現在のアプリゲームビジネスの特徴があると考えています。

佐藤:ユーザーが良いものに慣れてしまっているからこそ「新しいものに対して感動を得にくくなっている」というのが現在の市況感なのかもしれませんね。

いかにユーザーを定着させるか

佐藤:異儀田さんは「高いスイッチングコスト」というキーワードも挙げてくださいました。

異儀田(MIXI):特に長寿タイトルの場合、ゲームをドラスティックに変えることはなかなかできません。なぜなら、ユーザーは今のコンテンツを気に入っているから継続的にプレイしたり課金したりするからです。また、小泉さんがキーワードとして挙げたスーパーリッチ化により、アップデートはもちろん、新規ゲームの開発に際しても大きなコストがかかります。

 モンストのユーザーを見ていると、新しく出たタイトルに一度は振り向いてプレイしても、最終的には長く親しんだモンストに戻って来るケースが結構あります。つまり現状は、多大な開発コストをかけてアップデートや新規ゲームの開発をしても、ユーザーが定着しにくい状況と言えるでしょう。トップセールスランキングの顔ぶれが固定化している理由もそこにあるかもしれません。

小泉(WFS):私も「多くのユーザーを抱えているタイトルからいかに人を連れて来るか」と頭をよぎったことはあるものの、そのアプローチは間違っていると考えています。ユーザーが数年単位で長く楽しんでいるタイトルから完全に離れることはほとんどありません。そのため、当社では長寿タイトルが抱えているユーザーをメインターゲットには設定していません。

佐藤:今お二人から挙がった課題は、アプリゲームに限らずどの業界の企業も抱えているはずです。ゲーム以外のアプリビジネスでも、同じ状況が生まれるのではないでしょうか。マーケットが成熟し、ユーザーがクオリティの高いコンテンツに慣れていく中、自社のアプリを使ってもらうための工夫が求められていると思います。

最新「モバイルアプリトレンド 2023:日本版」レポート

日本のモバイル市場における消費者行動と、ユーザーに関する実用的なインサイトを解説しています。Adjustのサイトよりレポートをダウンロードしてご確認ください。

大画面でプレイしたいニーズが高まる

佐藤:続いてのアジェンダは「アプリゲームビジネスの未来」です。小泉さんからキーワードをお願いします。

小泉(WFS):私が考えるキーワードは「ボーダーレス化」です。アプリゲームビジネスにおいて、デバイスの垣根は今後なくなっていくと予想します。アプリゲームがリッチになると、PCやテレビなどの大画面でコントローラーを使ってプレイしたいニーズが加速するためです。

 実は我々も自社のタイトルをアプリゲームではなく「ライブサービスゲーム」と表現しているのです。スマホアプリとPCプラットフォーム事業を分けることなく、一つの事業として管理しています。

佐藤:サプライズが難しいからこそ、デバイスの垣根を超えたボーダーレス化は重要な戦略となりそうですね。ボーダーレス化について、異儀田さんのお考えを教えてください。

異儀田(MIXI):アプリゲームマーケットだけでビジネスを拡大することが厳しい場合、タッチポイントを増やすために対応デバイスを増やす判断自体は正しいと思います。ただ、コンシューマーゲーム化するとなった場合、アプリゲームを大画面に耐え得るクオリティまで持っていくなど、相応の開発コストがかかります。その点をどうクリアするかがポイントになると思います。

佐藤:続いてのキーワードは「マスとニッチのより一層の二極化」です。異儀田さん、これはどういうことでしょうか。

異儀田(MIXI):アプローチの話ですね。アプリビジネスへの参入障壁が上がっている中、マストレンドを追うことができるのは、ヒト・モノ・カネが潤沢な企業や、既に大きなユーザー基盤を抱えているトップタイトルぐらいでしょう。そうでないところがマスを狙って戦うのは難しいと思います。

ニッチが一定規模の市場として成立する

異儀田(MIXI):トップタイトルと戦わない別の道として、マスではなくニッチにアプローチする方法があります。特定の人たちのニーズを満たすコンテンツを世に出していくわけです。ビッグヒットを生むかはわかりませんが、新たな収益構造をつくる可能性はあると言えます。マス向けとニッチ向けの二極構造が今後進んでいくのではないでしょうか。

佐藤:ほとんどの人がスマホを持つようになった今だからこそ、ニッチが一定規模の市場として成立し得ると言えますね。ゲームユーザーは日本に5,000万人いると言われていますから。小泉さんのアプローチはマスとニッチどちらに近いですか?

小泉(WFS):ニッチから始めて、マスに広げていくアプローチですね。トップセールスランキングに長寿タイトルが並ぶ中、ここ二、三年は当社のタイトルもランクインしています。ゲームアプリはニッチが収益を出して成り立つ市場規模ですから「いかにニッチを研ぎ澄ませるか」が重要だと考えています。

 ニッチを研ぎ澄ませるために我々が意識しているのは作家性です。他のタイトルでは体験できないものが感じられるゲームをつくることでコアユーザーを掴み、そのコアユーザーとともにコミュニティをつくり上げてゲームを育てていくイメージです。

異儀田(MIXI):私はニッチな戦い方のポイントとして「ファンダムの重要性」を挙げます。まず「ニッチな人とは誰か」を考えてターゲットを設定し、コアコミュニティから勃興するアイデアを広げていく。コミュニティ発のコンテンツや、ファンが有する熱量の具現化にニッチ戦略の活路があると考えます。

人は選ぶがとことん愛されるタイトルをつくる

佐藤:モンストはマスでありながらニッチ、つまりコミュニティも重要視されている印象です。IPとコラボする際も、IPのファンコミュニティを活性化するような取り組みが上手ですよね。

異儀田(MIXI):モンストは強固な世界観を持つコンテンツというより、開かれた懐の深いコンテンツです。だから、どんなジャンルのIPでも受け止めて咀嚼して、モンストらしいコラボを実現できているのかもしれません。

佐藤:「ファンダム」「コミュニティ」のキーワードに関連して、小泉さんが取り組まれていることを教えてください。

小泉(WFS):ファンマーケティングやコミュニティマーケティングは、当社が長年注力している取り組みです。オンラインを活用したコミュニケーションもありますが、オフラインイベントやグループインタビューを実施し、お客様と近い距離で相互にコミュニケーションをとるよう意識しています。このような機会があるかないかで、お客様の「応援したい」「プレイし続けたい」と思う気持ちが変わってくると考えています。

佐藤:最後のアジェンダは「未来に向けて今から取り組んでいること」です。ここまで議論してきたアプリビジネスの現在や、考えられる未来を踏まえてキーワードをお聞きしたいと思います。

小泉(WFS):私のキーワードは「スーパーニッチ」です。先ほどもニッチという言葉が出てきましたが、全員に楽しいと思ってもらうのではなく、人を選ぶが選んでくれた人がとことん好きになってくれるタイトルをつくることが重要だと考えています。

 未来の市場で生き残るために、当社ではRPGの作品性・作家性を研ぎ澄ませることに取り組んでいます。「ライトフライヤースタジオから出ているものは間違いない」と思っていただけるように頑張っています。

「他社がやっているから」ではダメ

異儀田(MIXI):我々は未来に向けて「ライフサイクルをアップデートするような体験創出」に取り組んでいます。ユーザーのライフサイクルに変化や良い影響を与える、その体験を媒介するようなタイトルを出していきたいと考えています。

 また「コンテンツに即した新しいデリバリープランの提案」にも注力しています。プッシュ型のプロモーションばかりでは、運用する側も疲弊してしまうでしょう。コミュニティやファンダムから生まれたコンテンツを活用したり、新しいユーザー層へアプローチしたりと、マーケティングの打ち手=デリバリープランを更新しなければ頭打ちになると思います。

佐藤:最後にお二人からメッセージをいただけますか。

小泉(WFS):繰り返しになりますが、今の日本のアプリゲーム市場では中国や韓国から多くの企業が超ハイクオリティなゲームを携え、超リッチなプロモーションで進出してきています。そのような厳しい市況下で生き残るために当社が目指しているのは「作品性・作家性を研ぎ澄まし、良いものをつくってしっかりと届け、お客さまとともに育てていく」という非常にシンプルなことです。皆様の参考になれば幸いです。

異儀田(MIXI):現状を鑑みるに「アプリゲーム市場は今後も堅調に伸びます」と大手を振って言うことはできません。我々を含め、アプリゲームで戦うと決めている企業はアプローチを変える必要があります。「他社がやっているから」という理由でアプローチを変えるのではなく、モバイルで届ける意味、その人たちに届ける意味を定めた上でコンテンツの方向性を定めることが大切だと思います。

佐藤:今日のお話を聞いて、皆様と一緒にアプリゲーム市場をIGNITEしていきたいと改めて思いました。お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:adjust株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/09/25 10:30 https://markezine.jp/article/detail/43101