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マーケティング最新事例2023

“訴求しない”ブランド広告で「好意が高まった」93%、明電舎と読売広告社のZ世代向け施策

再生数210万超!サイト訪問数、好意上昇率など各項目でハイスコアを記録

 ――当初の目的やKPIに照らし合わせて、成果はいかがですか?

 明電舎さまのYouTubeチャンネルでの動画再生数が最高で30万回だったので、まずそれをベンチマークにしました。

 結果から言うと、今回のピクセルアート篇の動画は210万回再生を超え、明電舎史上最高の再生数になりました。サイト訪問数も平時と比べてデイリーで最高90倍、出稿期間は月間20倍以上という結果が得られ、視聴者が明電舎のことを「知ろうとしてくれた」様子がうかがえました。

 明電舎を認知していたユーザーについては、動画視聴後に「明電舎への好感が『高まった』という回答が93%に上ったほか、企業イメージ(「人間らしい」「信頼できる」など)を聴取すると、各項目が2倍〜8倍ほどの上昇が見られるなど、調査にあたったマーケターも「見たことのない数値」と言うほど、良好な結果が得られました。

 最も印象的だったのが、動画を見た人は、見ていない人に比べ、企業好意度が2倍以上高くなっていたことです。というのも、実はこの調査が広告配信してから、2ヶ月以上経った後に行われたものだからです。つまり、一瞬だけ盛り上がってすぐに忘れられるのではなく、見た人の心の中にずっと残りつづけることができたということです。

読売広告社 高橋 尚睦氏

 ――予想していた反応と比較すると、今回の取り組みをどうお考えですか?

 全体を通して、ここまで大きな反応をいただけるとは思っていなかったです。中でも印象的だったのはコメントの熱量でした。「今まで見たCMの中で一番好き」「すべてが完璧な珍しいCM」「広告でぶち上がれると思ってなかった」といった熱のこもった反応がSNSやYouTubeのコメント欄に続々と投稿されました。1本のWeb動画だけでここまで深いエンゲージメントを築くことができるということが、自分たちにとっても発見でした。

 ちなみにチームで最も嬉しかったと話していたのが「明電舎…お前、覚えたからな!!」というコメントです。

「受け手が能動的に意味づける」から心に残る

 ――実制作でポイントとなったところはどんなところでしょうか。

 今回は監督も兼任している中で、力を入れたのが「演出」です。MVのような没入感を目指していたので、1フレーム単位で徹底的に音と動きをシンクロさせることを意識しました。ここについては映像プランナーも兼任していたため、企画の段階から「音に合う動き」を同時に考えることができたことも大きいです。

 もう1つは、通常とは少し変わった制作プロセスで進めたことです。一般的に動画広告では、映像のプランニングをしてから音楽を考えていくことが多いと思います。しかしこの企画にあたっては、音楽と映像の“双方”からアプローチしたのが特徴的でした。

 音楽については数百曲の中から候補曲を数曲まで絞り込みつつ、音楽単独では決めない。映像についてはシーンセレクトのプランを数十個ほど考えながらも、シーンとしての良さだけでは決めない。その上で楽曲とシーンプランを突き合わせ、両者の組み合わせパターンをひとつひとつ検証し、音楽と映像のベストのアタリを探し出す、というプロセスで進めました。

電気が「温める」「灯す」「呼び出す」「上昇させる」「輝かせる」。数十パターンのシーンセレクトと数百に及ぶ候補曲とのマッチングからこの並び順に絞られた
電気が「温める」「灯す」「呼び出す」「上昇させる」「輝かせる」。数十パターンのシーンセレクトと数百に及ぶ候補曲とのマッチングからこの並び順に絞られた

 ――今回、成果が出た理由・成功の秘訣はどこにあったとお考えですか。

 最大のポイントは「受け手の能動性を引き出す」という点だと思います。今作では広告でありながら「訴求する」という行為を意図的に排していきました。なにかを「意味づける」という行為は、本来受け手のものであって、送り手側に決定権があるのではないと考えるからです。

 「相手に言われる」のではなく、受け手が想像力や好奇心など、自分の“頭と心”を総動員してメッセージをつかみとったとき、初めて意図した意味が相手のものになるのではないでしょうか。受け手は“受け身”ではなく、能動的で創造的な存在だと捉えることが効果を高める秘訣だと思っています。

 2ヵ月以上経過してもずっと好意的なイメージを心に残していただけていたのも、見た人が「明電舎はどんな人格の企業か」を自分自身で意味づけたからだと考えています。100回受動的に言われたり見せられたりするよりも、たった1回でも、能動的に接触したほうが相手の心の中に大きなインパクトをもたらすのではないでしょうか。これはマーケティング的にはコストパフォーマンスにもつながりますよね。

 ――受け手に解釈を委ねることは広告主から見るとリスキーだとも感じますが、その点はどのように合意を形成したのですか?

 企画や制作にコストがかかっている以上、どうしても「何かを言っておきたい」と思うのは、あらゆる広告主に共通することだと思います。その上でこうした決断するにあたって最終的に問われるのは「送り手が受け手をどこまで信じられるか」です。

 その意味では、今回の決断は明電舎という企業の文化や人格が土台にあったともいえます。もう一点、明電舎のみなさんの尊敬できるところは、本質的な議論をどんどん深掘りしてあるべき姿を突き詰められるところです。今回も、果たすべき目的を考えたとき、ベストな選択肢として当初のコンセプトを貫徹できたことが成果につながったと思います。

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見えてきたのが「先義後利」のクリエイティブ

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/11/02 09:30 https://markezine.jp/article/detail/43249

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