「性のオピニオンリーダー」を目指す
菅原:本日はTENGAの西野さんをゲストにお迎えしました。TENGAさんは長く「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というグループミッションを掲げ、アダルトグッズの展開から、LGBTQ+支援など幅広く活動されています。また、西野さんご自身も企業広報として顔を出して活躍されています。
TENGAさんとパブリックグッドは2018年からのお付き合いで、様々なお取り組みをご一緒していますが、まずは自己紹介をお願いできますか。
西野:主にマーケティングコミュニケーションを担う部署である、国内マーケティング部の部長を務めています。菅原さんと初めてお会いしたときは、広報チームのマネージャーでした。その後、国内コミュニケーショングループのグループマネージャーを経て、2021年から現職です。
菅原:最初にお仕事をさせていただいたのが、2018年5月に創刊し今年の8月で50号を迎えた、報道機関やユーザー向けのニュースレター「月刊TENGA」の取り組みでしたよね。
西野:そうですね。性に関するグッズは、どうしても男性向けのスポーツ紙など限られたメディアでしか取り上げられないというPR的な課題を当時抱えていました。もっと幅広い人に知ってほしいという思いがあった中、パブリックグッドさんからご提案いただいたのが月刊TENGAでした。
当社は、これまで調査してきた性に関するデータや、スタッフが持つ論点・視点の蓄積が強みです。世の中にある性に関する情報は、卑猥でいやらしいものか、性教育の真面目なものの両極端になりがちですが、TENGAはそのちょうど真ん中の立ち位置になれるとご提案をいただきました。性に関するフラットな情報発信をすることでより多くの方とコミュニケーションを取るための手段として月刊TENGAを創刊しました。ご提案いただいた際の「TENGAが性のオピニオンリーダーになりましょう」というお話は今でもしっかり覚えています。
菅原:そして、TENGAさんは本当に性のオピニオンリーダーになられましたよね。月刊TENGAで反応が良かったり、印象に残っていたりする特集はありますか?
西野:初期の特集「“賢者タイム”について本気出して調べてみた。」(2018年8月27日、第4号)は好評でした。社員が実験をしたもので、バカバカしいことを真面目に取り組む姿勢がTENGAっぽいなと思います。一方で「産前産後。性生活実態調査。」(2019年10月30日、第18号)は、出産後の夫婦生活やコミュニケーションについて意識調査を行い、婦人科の医師から産後の性生活を豊かにするコツをヒアリングしました。このテーマでお悩みの方は多い反面、調べてもなかなか出てこない情報を深く掘り下げられました。
また、「新型コロナウイルスと性生活に関する調査レポート」(2020年8月31日、第28号掲載)の結果を、感染症専門医の忽那賢志先生が「Withコロナ時代の安全なセックスとは?」という記事で取り上げてくださいました。月刊TENGAの活動そのものが「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」という当社のミッションを体現していると思います。
性の情報整備がめぐりめぐって自社の利益につながる
菅原:性に関する正しい情報発信のほかにも、LGBTQ+や高齢者などに向けた商品・サービス展開や、障害者の就労支援を行う「able! Project」、10代の性の悩みにこたえるメディア「セイシル」の運営など、社会活動にも手広く力を入れていらっしゃいます。これらの活動は利益に直結しにくいものでもあると思いますが、バランスについてはどのようにお考えですか。
西野:我々は創業当時から「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というミッションを掲げてきましたが、2022年にはそれから一歩進み「生きている、すばらしさを。」という新たなコーポレートメッセージを制定しました。
性の健康(セクシュアルヘルス)の重要性は、単に疾病がない状態を意味するに留りません。WHO(世界保健機関)も、性の喜びや満足は幸福にとって不可欠な要素として言及しています。性別、年齢、障害の有無に関わらず性的欲求を楽しむ権利がある。つまり、“性”を楽しむことは“生”を楽しむことであり、健康を維持するという観点からも、誰もが性の健康を大事にすべきであると考えています。
また、そのためには、正しい知識や情報を得られることが大前提です。性に関する知識は、生殖の仕組みや性暴力の防止など健康に生きていくために必要な基礎知識と、個々人の好みが反映される一歩踏み込んだ性的嗜好に該当する応用知識があると考えています。本来は基礎があって応用があるはずですが、これまで性の知識は、基礎も応用もごちゃ混ぜになってすべてがタブー視されてきました。
当社の製品にたどり着いてもらうことが事業活動だとするならば、基礎と応用の情報環境を整理することもその一環です。適切な情報が行き渡れば、短期的な利益に直結せずとも、社会やお客様が性をフラットに捉えてくれますし、私たちの製品を選んでもらう機会も増えますからね。