ファンが望むことを叶えてあげる
さらに「ファンが望むことを実現してあげることも重要」と駒谷氏。前述のZoom座談会で、とあるファンから「ボランティアで風呂掃除をしてみたい」という要望が挙がったという。そこで、実際に清掃体験イベントを敢行したのだ。
「その結果、参加者は皆、初対面だったにもかかわらずイベントが終わる頃には友達のような間柄になっていました。さらに、彼らがイベントの感想をXで投稿してくれて、その投稿のインプレッション数は通常時の約10倍を記録しました。来店数も増加したとのことです」(駒谷氏)
駒谷氏は「ファンのやってみたいことを聞いて、それを実現するのは、非常に今風のマーケティング手法」と話す。これによって参与感が醸成され、ファンの熱量も上がった結果、ファンの企業活動へのコミットをよりエンパワーメントすることにつながるのだという。
「参与感を醸成していくことで、ファンは究極的に、ほぼ『従業員』のような働きをしてくれます。感想を投稿するだけでなく、商品・サービスの使い方を広めてくれたり、商品・サービスの開発・改善提案、ときには販売代理までしてくれたりするのです」(駒谷氏)
湯どんぶりにおいても、クリエイターを本職とするファンがコラボグッズを作成。渋谷ヒカリエで販売しているほか、ファン同士で集まって近隣の飲食店マップを作成したり、ユーザー主導でウォーキング・ゴミ拾いクラブが発足し、地域経済や清掃に貢献する活動も生まれているとのことだ。
顧客の自己実現を目指すマーケティング4.0
そもそも、なぜファンとの対話が重要なのか。「なぜなら、マーケティング4.0の時代だから」と駒谷氏。マーケティング4.0とはコトラーが提唱する理論で、駒谷氏いわく「顧客の自己実現を目指すマーケティング」だという。
自己実現とは「マズローの欲求5段階説」でピラミッドの最上段に位置する欲求であり、「自分の能力を発揮したい」「創意工夫したい」などの欲望を指す。つまり、顧客に「自分の能力を発揮できた」と思ってもらうことを目指すのがマーケティング4.0であると駒谷氏は解説する。
マーケティング4.0が顧客の自己実現をゴールとする背景には、スマホとSNSが普及し、個人の訴求力が強まったことがあるという。「今や企業の直接的な宣伝よりもユーザーによる二次拡散のほうが、購買の決め手になり得る」と駒谷氏。つまり、ファンコミュニティを形成し、UGCを生み出すことが現代の有効なマーケティングメソッドということだ。
駒谷氏はマーケティング4.0の具体事例として、カルビーの「じゃがりこ 細いやつ(仮称)サラダ」を挙げる。カルビーが同商品のテスト販売期間中にSNSで正式名称を公募した結果、Xでは大喜利大会が始まるなど大きなバズりを見せた。最終的には、仮称が正式名称として採用されたため、一見無意味な企画に思えるかもしれない。
しかし「ユーザーを巻き込み、商品名を考えさせ、集まった声を“見えるところ”で反映させるプロセスそのものが、このプロモーションの肝だった」と駒谷氏は指摘。なぜなら、マーケティング4.0ではユーザーの自己実現がゴールであり、企画への参与感や、「Xという開かれた環境で自分の声が反映されるかもしれない」という期待感が自己実現につながったからだ。