「共分散構造分析」を活用し、欲望・心理変容・消費の結びつきを可視化
消費者の欲望を基点にして、その欲望が結果的にどういう形で消費者の心理変容をもたらし、かつ次の消費にどう結びついていくかを構造化ないし可視化する手法として、今回私たちは「共分散構造分析」を採用しました。
共分散構造分析とは、定量的に観測したデータから各項目間の因果関係を明らかにして構造化を行なう分析手法のことです。正確には、観測変数間の共分散の構造を分析する手法で、直接観測できない潜在変数を導入して、因果関係をわかりやすくモデル化する方法となります。今回の共分散構造分析を実施した結果の一部をマスキングした上で、図版3を紹介します。

図版の見方を簡単に紹介すると、まず、図版にあるパス(矢印)が太いほど因果関係が強く、パスが細いほど因果関係が弱いという見方になります。

また、この図版にある4つの項目については、以下のとおりです。
・(一番左)欲求因子:今回のモデリングの中で、消費者が根源的に持つ11の欲望から特に大きな因果を成す「原因」を構成する欲求を記載
・(左から2番目)良い気分・気持ちになった消費:心が動く消費調査より「いい気分・気持ちになった消費」として挙げられたものを3つのカテゴリー(モノ消費/コト消費/コンテンツ消費)に分解
・(左から3番目)消費後の生活変化:心が動く消費調査より「消費後の生活変化」を聴取し、因果分析の結果、3つの因子を抽出
・(一番右)消費意欲の変化:心が動く消費により、消費者にどういった前向きな心理変容があったかを記載
中身をより具体的に見ていくにあたって、今回の分析のモデリングを3つのゾーンに分けて見ていきたいと思います。
左ゾーン「欲求因子」と「良い気分・気持ちになった消費」の因果関係
「誰かの役に立ちたい、世の中の大切なものを守りたい」と「好きなモノを集めたい、好きなことに没頭したい」の2つの欲望が、「良い気分が得られた買物・商品」に最も太くパスが繋がっていることがわかります。

前者は昨今のSDGsトレンドでも表面化したような、社会や環境への貢献意識とそれを実現したい気持ちが消費者の中で芽生えているからこそ、良い気分が得られた消費に強く結びついているのでしょう。それとほぼ同じくらい太く結びついているのが後者で、モノを集めたいという欲や何かに没頭してみたい気持ちが、買物・商品にポジティブな影響を与えていると推察できます。
真ん中ゾーン 「良い気分・気持ちになった消費」と「消費後の生活変化」の因果関係
次のゾーンを見ると、「モノ消費」と「熱意の広がり因子」のパスが最も太いことがわかります。

「熱意の広がり」とは、たとえば、自分が昔好きだったことを思い出してまたやりたくなったり、自分をもっと磨いてより高い目標を設定しようとしたり、なんらか自分を生まれ変わらせ、一歩進もうとする心理状態を表す因子です。
つまり、心が満たされる消費をすることで、自分を拡張させる方向へ心理状態が向かうことが、このゾーンで可視化されたと言えます。
右ゾーン 「消費後の生活変化」と「消費意欲の変化」の因果関係
最後のゾーンを見ると、「熱意の広がり因子」から太く伸びているのが「新たにやりたいことや、新しいものへの意欲が湧いてきた」という項目です。次の消費に向かわせるには、このパスの太さが重要な意味を持っていると考えます。熱意の広がりが、なんらか漠然としているものであっても、次の行動に対する意欲を刺激していると考えられます。

また、「興味・関心の広がり因子」から比較的太く結びついているのが「同じ商品・サービス、または同じブランドや企業の同じタイプの商品・サービスを購入した、あるいは購入したいと思った」です。つまり、心が満たされた消費を通して、実際に購入したものを同じ商品・サービスをまた買いたいと思う気持ちが、消費者の心の中に生起しているわけです。
もちろん、商品ジャンルや性年代別で異なる傾向を示す可能性はありますが、ごく俯瞰的かつ網羅的に今の日本人の心が動く消費を見ると、「社会の役に立ちたい」という気持ちや「大切なものを守りたい」「収集したり没頭したりしたい」という欲が、イマドキの消費の好循環を促すドライバーになっていると結論付けられます。