「ECと店舗で同じ体験を提供したい」とは思わない
押久保:「ECでも店舗と同じ体験を提供する」ことを目指しつつも、結局自動販売機のようなことしかできていない企業は多かったと思います。それがテクノロジーによって、近しい体験を提供できるようになったと。
藤原:僕は「ECと店舗で同じ体験を」とは考えていないんです。お客様はECと店舗で同じことをしたいと思っているわけではありません。たとえばECではなるべく早く効率的に、かつ自分なりの商品を見つけたいというニーズがある一方で、検索性のない店舗では、宝物探しのような買い物をしたい方が多いのではないでしょうか。
ECと店舗では、体験自体ではなく「意味合い」を同じにすることが重要であり、Howの部分は異なっても良いと考えます。店舗で求められる回遊性の良さは、ECではサクサク動くスピードといった意味合いになりますよね。そのために基盤の整備をするといった方法を取るでしょう。
押久保:山崎さんはECと店舗の違いについて、どのようにお考えですか。
山崎:私が思うにECと店舗の違いは、そこで扱われる情報に着目した場合「インターフェース」と「データの蓄積」があると思います。
インターフェースという意味では、直接お客様と店員がコミュニケーションを取れる店舗だからこそ得られる情報のインプットもあれば、ECだからこその網羅的なインプットもあり、善し悪しというよりはそれぞれに価値があると考えています。
一方でデータの蓄積として考える場合、店舗においては今までは各店員の記憶という形でしか蓄積できませんでしたが、ECの場合には行動履歴、レビューなど、デジタルならではのデータとして貯めていき、活用することができるようになったと思います。
押久保:確かにAmazonなども普通のEC(インターフェース)から始め、そこで蓄積されたデータ(アーカイブ)を使って、他の事業にどんどん拡大していますね。
山崎:今はECにおいては情報の入出力と蓄積はまとめて扱われることが多いかもしれませんが、今後は異なる特徴として活用されていくのではないかと思います。
顧客視点に立てているか?陥りがちなECの課題
押久保:お二人から見て、ECにおいて企業が直面しがちな課題は何がありますか?
山崎:サイトリニューアル時に苦労する企業は多いですね。
藤原:各社様々な事情があると思いますが、あれもこれもと試してみたくなり、本当に効果があるかわからないものまで詰め込んでしまう。結果、要件が膨らみ過ぎる場合があると思いますが、一番は顧客同士のUXが重要だと思います。
押久保:ユナイテッドアローズさんも、2022年3月には自社オンラインストアのリニューアルを実施されましたね。改善を図った点がありましたら教えてください。
藤原:「ユナイテッドアローズオンラインストア」から「ユナイテッドアローズオンライン」へ変更しました。商品を売るだけではなく、洗濯の仕方といったノウハウやスタッフによる気温別コーディネートの紹介など、コンテンツも含めたメディアにリニューアルしました。
また、ZETAさんが提供されているハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」を導入し、自動生成されたハッシュタグが検索結果ページや商品詳細ページに表示されるようにしています。
押久保:確かにサイトを見ているとき「自宅で洗える」のハッシュタグが出てきて、これいいなと思っていました。まさに顧客視点ですね。
山崎:元々ECは、商品を探す・決済、配送の3つが主な機能でした。そこに最近は、ユーザー経済圏を拡大するための機能が増えています。顧客視点の商品やサービスであればお客様の満足度も上がり、率先してソーシャルに発信してもらえることも期待できると思います。