生成AI、本当の勝負は「対 顧客」での活用
「ECとAIの新しいカタチ - ChatGPT時代のEC運用」と題した本セッション。冒頭「AIは『産業革命に匹敵するインパクト』があり、使い方次第で大きな売上拡大が見込めるパワーを持っています」と語ったビービットの生田氏は、小売/EC業界におけるAI活用を考えるにあたって、改めてAIとは何か、その活用状況はどうなっているのか振り返るところから始めた。
今やほとんどの人が知っているであろう生成AIという言葉。実際には様々な種類があるが、昨今話題のGPTは大量のテキストデータを使ってトレーニングされた自然言語処理のモデル(LLM:大規模言語モデル)に該当し、その中でChatGPTはブラウザでチャットのように使えるようにしたサービスである。
生田氏によると、生成AIの活用は大きく3つの段階に分けられるという。第1段階は「対 個人」で、個人が生産性を向上させるための活用。第2段階は「対 業務」で、企業内の業務プロセスの品質および効率の向上に生成AIを使う。アイデアの壁打ちやエクセル集計の効率化が例として挙げられる。第1・第2段階に関しては、すでに活用アイデアも出揃っており、容易に実施できることから多くの企業が取り組んでいる。
そして、第3段階で最も重要でありインパクトが大きいと考えられるのが「対 顧客」だ。つまり、エンドユーザーに対して提供するサービスでの生成AIの活用だ。ベンチャーキャピタルの主な投資対象となっている領域で競争が激化しつつある。この第3段階は市場原理を大きく変える可能性があり、取り組みの緊急度・難易度も高くなっているという。
生成AIは、ECのビジネスモデル自体を変える
生成AIの現状を振り返った後、生田氏はECにフォーカスして話を進行。ECではどのように生成AIが使われ、ビジネスがどう変わっていくのかに関する仮説を3つの段階に分けて解説した。
第1段階はデザインやコーディング、コンテンツ制作などの自動化が該当する。具体的にはECで使うバナーや画像、配信メールやメッセージなどをAIが生成、アイデア出しをすることだ。すでに実際に取り組んでいる企業もあるのではないか。
続く第2段階はインターフェースの刷新。購買プロセスや商品選定がチャット形式で完結するようになったり、特定のエージェントアプリがすべての検討・購買プロセスを集約するようになったりする。
そして第3段階は提供価値やビジネスモデルそのものの刷新など、より奥深い変化が挙げられる。たとえばECの場合、AIがユーザーの代わりに商品を選びレコメンドするため、AIに選ばれるための対策が必要となるだろう。また、制作やFAQ、サポートなどに人・コストを割く必要がなくなるため、コスト構造が大きく変わる可能性もある。
インターフェースの刷新はコミュニケーションをスムーズにし、顧客が満足できる体験の提供に貢献する。また、ビジネスモデルの刷新によってビジネス成長のチャンスもあるだろう。スマートフォンが登場し、それまでPCでは取り込めなかった潜在顧客を獲得できたときのように、生成AIは既存顧客に対してよりリッチなサービスを提供するだけでなく、潜在顧客の新しいペインを解消し、新たな価値提供ができる可能性があるのだ。
「ECにおけるAI活用は、現在は第1段階にあります。第2段階のインターフェースの刷新は、数年以内に起こることが考えられます。そのため、今からその変化に備えつつ、最終的には第3段階の提供価値やビジネスモデルの刷新が起こることを頭の片隅に置きながら、AIと向き合っていく必要があると思います」(生田氏)