景表法と改正のポイント
――今回の規制を踏まえて、事業会社や広告会社などの企業が実務において気を付けるべき点を教えていただけますか。
今回の規制で「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準が示されました。どのような場合にステマ規制に引っかかるのか、企業はこの運用基準を見ながら都度判断していくことになります。
たとえば、インフルエンサーが自主的な意思に基づいて投稿したのでなく、企業から依頼を受けて行った投稿については、原則として広告やPR の表記をつけなければいけません。消費者が見てそれが広告だとわかるようにしないといけないということですね。
企業さんからの相談で多いのが、PR 表記によって広告の訴求効果が落ちてしまうので、なるべく表記したくないというものです。インフルエンサーの方に「こうしてほしい」と具体的に指示をしているわけではないし、「これは広告ではないのでは」と考える企業さんも少なくないようです。確かに線引きは難しいのですが、無償で商品を提供したり、その商品について解説などの情報提供をしたりしていれば、何かしら投稿に影響を与えてしまい、自主的な意思による投稿と言えるか問題です。
他方で、企業さんの中には、このようなステマ規制のリスクはなるべく避けたい、また、インフルエンサーの方の投稿については不当表示となっていないかチェックしたいという考えも増えてきていますので、すべて広告として表記し、企業が広告の中身を管理していく流れも増えるかもしれません。今後の事例を注視していく必要があります。
──消費者に対して誤解がないようにきちんとした情報を届ける。そのために企業全体の意識を高める必要がありますね。
そうですね。また、PR や広告表記をつけていても、わかりにくい表示ではいけません。たとえば、PR・広告と書いてあるのに「第三者の意見です」とも書くケースは規制の対象になる可能性があります。結局どっちなのか判断が難しいからです。
さらに、事業者自身が口コミなどを書き込むケースも注意が必要です。たとえば、事業者であることを隠して、自らの商品に書き込みをしたり、ライバルの製品に対して悪い書き込みをすることもステマ規制の対象になりえます。
──ステマ規制以外で、景表法において落とし穴になっている点や、気を付けるべきことはありますか?
最近多いケースとして、「不実証広告」があります。たとえば、皆さん「空間除菌ができます」や 「温室効果ガスを○%抑えられます」という表記を目にすることがあるかと思います。これを広告に記載する場合、表記内容を実現できるという合理的根拠が必要です。ここが注意点なのですが、たとえ実験データ(資料の客観性)があったとしても、その商品が使用される場所・条件での実験でなければ合理的根拠とみなされません。
このことをお伝えすると「そこまで見られているのか」と驚く企業さんが多い印象ですね。違反事例を見ると、大企業でも意外と引っかかってしまっています。消費者庁の意識と、広告を出す側の意識の差が明確に出ている部分です。
また誤表記で違反になってしまう場合もあるので注意が必要です。たとえば、本来「体感温度が下がる」と表記すべきところを「気温が下がる」と表記してしまうと、根拠を立証しようがありません。各部署の連携が上手にとれていない企業さんなどではこういったミスも生じやすいので注意が必要です。