広告依存のビジネスモデルから脱却する
有園:その流れの中で、生成AIも重要になると思います。生成AIのインパクトをどう見ていますか。また、どう対応していきますか。
矢嶋:生成AIは、ビジネスの効率化と高度化を可能にすると言われていますが、その方向性はAaaSの取り組みと同じです。AaaSでは、統合データによって広告のパフォーマンスを向上させ、業務効率化もできるモデルを作っていますから。
2023年5月には、博報堂テクノロジーズに専門組織をつくり、環境構築やグループ各社向けの現場支援を実現するとともに、自社内ヘルプデスクでのAzure OpenAI ServiceのAPI活用による実用化など社内業務効率化も進めています。加えて、クリエイティブの効率化、メディアプランの高度化などに生成AIを活用した多様なツール開発と、その更なる改善のための研究をしています。また、マーケティング領域でも生成AIの活用を目指しています。
有園:生成AI開発人員をはじめ、博報堂テクノロジーズではテクノロジー人材を積極的に採用しているのですか。
矢嶋:まずはグループ内で開発に関わってきた人や見識のある人を集めました。さらに、新規採用も積極的に進めています。
有園:マス広告の市場規模が相対的に小さくなっている今、テクノロジー人材の積極採用は、戦略転換の表れではないかと考えています。目指す方向がこれまでと変わったのではないですか。
矢嶋:目指す方向が大きく変わったわけではありません。ただ、これまでは広告プロモーションの領域で収益が成り立っていました。今後はそれだけでなく、マーケティングエージェンシーを目指したい、ということです。
その方向性自体は、ずっと前からありました。しかし実態として、今でも収益の多くは広告が占めています。ここ数年、広告の市場が縮小していくという危機感が高まっており、ビジネスモデルを変えないといけないという意識で取り組んでいます。

“モニタービジネス”の時代が到来する
有園:広告業界ではそういった方針を打ち出す企業はたくさんあります。その中で、他社との違いは何かと聞かれたらどう答えますか。
矢嶋:当社の特長の一つは、デジタル広告とテレビ広告を統合的に評価して、PDCAを回せることです。日本企業の広告予算は、テレビとデジタルの2つで7~8割を占めています。この2つを別々の代理店に依頼していると非効率です。両方を実施できるのは、クライアントにとってメリットがあります。
また、テレビ広告とデジタル広告の統合的な技術開発にいち早く着手したため、組織も一体化し、テレビとデジタルの広告を一緒に取り扱う体制を構築しているのです。こういった体制や機能、システムを強みにしています。今後、統合的なサービスのニーズがより高まってくると思います。
有園:私は、DACにいた矢嶋さんがメディアパートナーズの社長になったとき、「デジタルに強い人が社長になった」と内心うれしかったんです。それも大きいのではないですか。
矢嶋:博報堂DYメディアパートナーズの社長に就任する頃、「デジタル広告単体でビジネスをやっていくのは厳しい」と感じていました。DACがデジタル中心で業務展開をしていくには限界があるかもしれない、と。そのため、メディア広告全体を扱う博報堂DYメディアパートナーズの社長に就任した時、DACも一緒になってデジタルとマスメディアを掛け合わせた統合的なサービスの強みをさらに伸ばすチャンスでもあると思いました。
これから、あらゆるものがモニター化する“モニタービジネス”の時代がやってきます。それに対応するためには、テレビ、デジタル含めてトータルで取り組む必要があります。新しいビジネスモデルを構築しないといけないという意識が以前からありました。だから今、その取り組みを進めているのです。