モニター化する世界で重要性が増す“ダイナミックデータ”
有園:テレビはもちろん、他の家電や自動車もインターネットにつながってモニターが付く世界になっていきます。時計もモニターになりましたね。
矢嶋:自動運転の車には、車内にモニターしかなくなるでしょう。スマートフォンも当然モニターですし、家電もモニター化すれば、人が起きている時間はほぼモニターと接することになります。さらに数年後には、スマートフォンというモニターすら持ち歩かなくなるのでは。ウェアラブルデバイスで十分ですから。
そういった視点で考えると、ダイナミックデータが非常に重要です。データを取得、統合するシステムを構築するためにAaaSに着手したのです。
有園:モニターが広がっていくときに、最も大事なことは何でしょうか。私の考えでは「ID」です。クッキーレスになっていく中で、ターゲティング広告を出すためには、何らかの形でIDを管理していくことが必要だと思います。それについてはどうですか。
矢嶋:どのように許諾を取るかが大きな課題ですね。現状では、ユーザーにポイント付与などのメリットを返すことで許諾を取る方法も使われています。IDバンクのような取り組みもありますが、なかなか集まらないのが現状です。
広告会社の視点では、自社のデータとともに、様々なIDデータホルダーのみなさんと一緒に、セイフティーな形でデータを活用する基盤を構築することが必要です。そのためには、データマーケティングを専門で行う会社や仕組みを持たないと難しい。そんな流れになってきています。

ハイテクとハイタッチ、両軸でサービス開発を
有園:ユーザーが喜ぶような仕組みを作っていけたらいいですね。最後に、生成AIによる今後の変化と展望について、考えを聞かせてください。
矢嶋:生成AIによって非常に大きな変革が起こると思います。それは今までの変化とは根本的に違うでしょう。そういった新しい技術が出てくると、新しいプレーヤーがどんどん参入し、画期的なサービスが生まれていきます。今後、マーケティングカンパニーを目指すために、その環境をチャンスと捉え、新しいクライアントサービスを作っていくことが必要です。広告以外の新しいビジネスを創造するチャレンジをしていくことになると思います。
その際に重要なことは、安全性とパフォーマンスの高さを両立させることです。社内では、Safety、Performance、Advanced technologyの頭文字を取って「SPA」と呼んでいて、それを絶対に忘れてはいけないと言っています。
一方、これは逆説的ですが、テクノロジーが進化すればするほど、デジタルに回収されない、人と人との創造的かつしなやかなコミュニケーションの価値がさらに高まります。ハイテク(High Tech)だけではなく、ハイタッチ(High Touch)のサービスもより重要になるのです。ハイタッチサービスはスケーラビリティが見込めないため難しい部分もありますが、クリエイティビティを重視し、その発揮を得意としてきた博報堂DYグループとしても大切にしたい領域です。
有園:自動運転が普及したとしても、観光地の案内をしてくれるようなタクシードライバーの需要がより高まるのではないか、という話もありますね。
矢嶋:手軽にたくさんの人が利用できるサービスだけでなく、価格が高くても付加価値の高いサービスが求められるようになると思います。
有園:両方に力を入れるということですね。本日はありがとうございました。