拡大し続けるスポーツ市場
田中:今回はスポーツのマーケティング活用とその可能性についてお話していきます。まず、スポーツ市場の状況について確認していきましょう。2015年~2016年時点でのスポーツ産業の市場規模は米国で50兆円、中国では約10兆円、日本は5兆5,000億に。日本では政府が「日本再興戦略2016」において、2025年までに15兆円規模への拡大を目指しています。
田中:特に世界では、スポーツを経済と直結させていることがわかります。また近年はSDGsやダイバーシティの文脈が広がっています。このような状況を念頭に置き、登壇者の皆さんにスポーツのコンテンツ力についてお伺いしていきます。
鈴木:コンテンツ力という文脈では、間違いなくデジタルの力をもっと使っていく必要があります。ただ、今後はもう一歩先も見るべきだと考えています。それは“現場”です。
試合をデジタルで配信して多くの人に見てもらい満足するのではなく、そのフェーズからいかにスタジアムや会場に視聴者を連れていくか。「現場の価値が高い」状況をどのように作り出すかが、カギになるのではないでしょうか。たとえば海外のサッカークラブではVIP席を用意し、実際にチームのコーチから選手の注目プレーについて説明を聞けるなど、現場に赴いたファンにとって非常に価値ある体験を提供しています。
松岡:私もスポーツの中で実体験が重要だと思います。スポーツは勝ち負けがありますから、コンテンツとして非常にわかりやすいです。また体育の授業などで皆さん一度はスポーツに必ず触れますから、誰でも満足感を得られやすいコンテンツといえるでしょう。
現地で観戦し、実体験として興奮を味わい、その経験を経て配信サービスに登録するといった行動にもつながります。鈴木さんのお話とは逆の順序ですが、体験があった上でデジタルでの取り組みにつなげられるという意味でも、実体験は大切ですよね。
馬場:企業・ブランド目線だと、スポーツのコンテンツ力は真剣勝負に起因する“筋書きのないドラマ”に魅力があると考えています。ブランドやマーケティングの世界は「人が考え設計した企画」を進めることになり、これはこれで面白いのですが、スポーツには予測不可能な面白さがあります。そういった体験に企業やブランドがうまく入っていくことができれば、ユーザーの記憶に強く残るのではと考えています。
ただ、当然ながらユーザーの記憶に強く残るようなドラマが生まれるのかは運による部分も強いです。したがって企業側は短期的な成果ではなく、中~長期目線での投資の意識は必要ですね。
今、グローバルではスポーツ市場をどう見ているか
田中:投資というキーワードが出ましたが、実際にスポーツの現場にいる松岡さんはいかがお考えですか?
松岡:グローバルでは、女子スポーツが企業の投資先になる潮流が来ています。具体例を挙げると、ドイツではGoogleが女子サッカー代表を、またシンガポールではデロイトが女子サッカーリーグ(Women’s Premier League)の冠スポンサーに付いています。
松岡:背景として、グローバルなスポーツであるサッカーのような競技であっても、女子サッカーの市場にはポテンシャルがあります。加えて近年はZ世代を中心とした消費者が、ブランドのDNAにDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の考え方が組み込まれているかどうかを見ています。
したがってスポーツも、男子だけでなく女子も含めた全体で投資をすることで、企業がCSRとして掲げたダイバーシティやジェンダー領域が強化されていく。グローバルでは単なるスポーツビジネスではなく、「色々なビジネスがある中、投資先の一つとしてスポーツがある」という見方をされていますね。
田中:現在こういったトレンドがある中で、サントリーさんは昔からスポーツに関わられていますよね。
馬場:私たちがご提供している商品は飲料ですので、スポーツ飲料などを試合の最中に飲んだり、応援しながら飲むお酒であったりと、親和性の高さがあります。ですから、スポーツは私たちの活動軸の一つに入っていると感じています。