※本記事は、2024年1月刊行の『MarkeZine』(雑誌)97号に掲載したものです
Ad Age「エージェンシー単体ランキング」が終了の示唆
米国で最古で最大手の広告業界誌「Ad Age」が、1945年から79年間にわたって毎年集計・発表している「Ad Age Agency Report」。このレポートの根幹を成す「広告エージェンシー(単体)ランキング」が、2023 年4 月発刊版(2022年度集計分)から発表されなくなった。広告エージェンシーを束ねる「ホールディングス(例:WPP、Accenture、Omnicom、Publicis、Dentsuグループなど)」のランキング発表のみとなっている。
どのタイプのエージェンシー事業が大きくなっているか、収益が伸びているかといった比較が今後はより一層難しくなる。
Ad Ageは集計発表をやめる理由として「傘下の広告エージェンシー単体(世界での支社ネットワークを含む)の収益を公開しないホールディングス企業が増え、ランキング集計として成立しにくくなったから」と説明している。過去よりこの集計の複雑さは存在し、たとえば「WPPが傘下のJWTとWundermanとの合併企業として数字を発表したが、Hill&Knowlton(JWT系のPR会社)の数値も合算してよいのか」など、「広告系」企業同士の次元で集計課題が毎年多発していた。その都度なんとか整理して、これまで公表を続けてきたというのが実情であろう。
この状況に、近年は「広告系」企業だけでなく、AccentureやDeloitte、PwCなどの「コンサル系」企業も台頭している。「事業コンサルティングこそが最大のマーケティングサービス」という立ち位置ならば、クラウド投資からIR、危機管理、DXなどコンサルティング事業の大半が旧来のマーケティング・広告事業に内包されてしまい、金額はたちまち桁違いに巨額になる。広義のマーケティングサービスすらも区分が難しくなったのだ。
エージェンシー・ランキングを継続集計していたAd Ageの価値
上場企業の公開データ(のみ)を使って作成されているランキングの場合、非公開企業はランキングに登場しない。「日本の広告主ランキング」には東証に上場していない外資のAmazonやGoogleが登場しないのも、公開データだけの集計であること(バイアス)がその理由だ。
これに対し、Ad Age のエージェンシー・ランキング集計方法は、意外にもエージェンシー各社がExcelに数字を手入力して提出するという「自主申告制」の集計だ。過小・過大な数字を提出しても「バレる」「怪しまれる」という不名誉が付きまとう。業界各社が互いに協力(監視)し合うことで数字の精度や信用が保たれる、言わば紳士協定をAd Ageが「業界内」に機能させてくれていたわけだ。
その分、Ad Ageの集計データからは「どのように見せたいか」という各社の戦略やメッセージも読み取れる。コンサル系企業がランキング上位に自らを登場「させた」のは、ビジネス座標をこのランキングに移行させる意図があったからだ。これに対する対抗方法として、エージェンシー側では「合わせ技(傘下企業を束ねる)」や、逆に「(コンサル系も含む)この広告土俵では競わない」という選択も発生している。その事例を2つ紹介しよう。