顧客の視点で、ニーズや気持ちを深掘りしていく
西口:以前勤めていたロート製薬には、私が入社する前から組織として顧客に会うことが徹底されていました。若いメンバーはもちろん、ベテランの方も商品を取り扱うドラッグストアなどの店舗をよく訪れていました。店舗の許可を得て、平日の忙しくない時間帯などに来店中のお客様に直接インタビューすることもありましたね。
また、商店街でお買い物中の方にお声かけすることもありました。その場合、自社プロダクトのユーザーでないことも多いですが、「どのブランドの何を使っているか、何を気に入って使い続けているのか」などを深掘りしていました。
MZ:そうした地道な活動を重ねることで、顧客がプロダクトに求めるものがリアルにわかってくるのですね。SNSも顧客の声を知る上で有効なチャネルだと思いますが、直接話を聞く活動とはやはり違うのでしょうか?
西口:SNSは今の時代、プロダクトがどのように受け止められているかを知るのにとても役に立ちますが、SNSの傾聴だけでは足りないと思います。SNSで感想を拾っていくと「これって具体的にはどういうことなんだろう」「特に何が決め手だったのだろう」など、新たに疑問が湧いてきますよね。こうした話は、やはり直接聞いて深堀っていく中でしか消化できないと思います。
対面でもオンラインでもいいのですが、とにかく「顧客の視点でどう見えているか」を聞くことが、何が価値になり得るかを理解するためには絶対的に重要です。
AIの時代だからこそ、人が担うべきこと
MZ:第2回でマーケティングの樹海について伺いましたが、マーケティングがますます複雑化する一方、たとえば顧客のニーズをつかむことは、むしろテクノロジーによって簡単になっていたりするのでしょうか?
西口:はい、やりやすくなっている部分はあると思います。その一つが先ほどのSNSですよね。またAIの発展も目覚ましいので、顧客理解においてデータ化できる部分は、マーケターがやりやすくなるというよりも「やらなくてよくなる」方向になっています。
MZ:仕事そのものが減る、ということですか?
西口:そうですね。たとえば、どのようなコミュニケーションがより好まれるかという点では、バナー広告のコピーライティングやグラフィックもAIが色々なパターンを出せますし、メディア選択も出稿のタイミングもオートメーション化されています。それらを全部、効果が高い方向へAIが自動最適化してくれますよね。
さらに、将来的にはどんな顧客のLTVが高く、その方々に初期段階から効果的に接触するにはどうコミュニケーションすべきか、といったことも自動化されていくでしょう。データ化できることはすべてAIが代替するのです。だからこそ、データ化できない「心理の把握」がカギになるのです。