「消性化」や「消域化」も進む
──消齢化の視点を取り入れてマーケティングをうまく実践している事例はありますか?
消齢化を意識してマーケティングを実施した事例というよりは、結果的に消齢化の波をうまく捉えていた事例はいくつか思い浮かびます。1つは玩具業界です。人々が年相応や適齢期のような固定概念に囚われなくなったことと、大人向けの人形や戦隊ベルト、ミニチュア自動車玩具などの発売がマッチして、少子化にもかかわらず玩具市場がかなり伸びているのです。大人向けの玩具を楽しむ若年層もいるため、ここでも消齢化の傾向が見て取れます。
また、エンタメ業界でも消齢化の流れが加速しています。たとえば、90年代に連載されていた少年漫画の映画化作品が、今の小学生からシニアまで幅広い年代に受け入れられていました。もちろんコンテンツ自体の強さによるところも大きいでしょう。動画配信サービスの台頭により、年齢ではなく視聴パターンを基にコンテンツがレコメンドされる環境も消齢化と親和性が高いと言えます。
雑誌業界で好調な売れ行きを示しているのが美容雑誌です。ファッション誌の美容特集を見ると「40代からの小じわ隠しメイク」など、対象読者の年齢層に応じた内容が取り上げられていますが、美容雑誌はファッション誌ほど読者の年齢を問わないため、20代も40代も、最近は男性も同じ美容雑誌を読んでいるようです。年齢や性別の垣根を超えた大きいニーズを捉えていると言えるかもしれません。
消齢化にまつわる興味深いエピソードとして、カップに入った味付きクラッシュアイスの事例があります。元々は部活帰りの学生を主な対象としてコンビニで販売されていましたが、ある年の夏に売上が急伸したそうです。POSデータを見ると、学生だけでなく50〜60代の方も同商品を購入していました。そこで調査を行ったところ、熱中症対策の品としてシニア層に買われていることがわかったのです。
同様のケースはほかの業界でも起こり得ると思います。データは見方によって得られる示唆が異なりますから、年齢のフィルターを取り払って自社の購買データを見つめ直し「想定顧客以外の層に買われていないか」「買われているとすれば、どのようなニーズに合致しているのか」を改めて探ると、新しい発見があるかもしれません。
──2024年は生活者のインサイトがどうなると予想していますか?
消齢化は短期的なトレンドではなく、長期的に続く現象です。2024年も消齢化と多様化が同時に進んでいくことが予想されるため、両睨みでマーケティングをやっていく必要があると思います。
加えて、性別による違いが消えていく「消性化」や、インターネットの発達などによって地域間の違いが消えていく「消域化」も進んでいくでしょう。データを見比べると消齢化のほうが今は強い傾向を示しているものの、今後進んでいくと考えています。消性化で言うと、生活総研が独自に調査した「来年(2024年)のヒット予想」では「男性美容」を挙げる方が10代や女性を中心に多くいました。メイクアップに限らず、スキンケアや脱毛など男性美容全般を幅広い年代の女性や若年層が受け入れているのです。この領域はますます拡大していくと思っています。
消齢化の文脈で我々が注目しているのは「ひとり」に対する価値観の変化です。コロナ禍で多くの方が人と接触する機会を絶たれ、長い時間をひとりで過ごしました。それまでひとりと言えば「孤独」「寂しい」などのネガティブなイメージで語られることが多かったと思います。ところが、コロナ禍にひとりの時間を持った結果「自分自身と向き合うことができた」「新しい趣味を始めてみたら楽しかった」といったポジティブな声が30年前の調査時から大幅に増えたのです。年代別・未既婚別に回答を見ても同様の傾向が見られたため、ひとりに対する価値観も消齢化していることがわかりました。2024年はひとりに主眼を置いたマーケティングで活路を見出せるかもしれません。
──最後に、インサイトと向き合う読者へメッセージをお願いします。
「こうすればインサイトがわかる」という定石がすぐに見つかれば、誰も苦労はしませんよね。これからも皆で互いに知恵を出し合いながら、より良いマーケティングを実現していけるとうれしいです。
